アリ

沖縄 うりずんの雨のアリのレビュー・感想・評価

沖縄 うりずんの雨(2015年製作の映画)
5.0
一級品の映像資料であると共に、沖縄を「凌辱」し続けるものを鋭く告発する作品。
抑圧される側に寄り添う作品は多いですが、このように抑圧する側をあぶり出す視点を併存させるには徹底した取材と、莫大な資料や証言の整理が必要だろうと想像します。

沖縄戦を経験した元兵士はもちろん、コザ暴動の現場にいた陸軍兵や、性暴力事件加害者へのインタビューなど米軍側の視点を加え、あらゆる出来事が驚くほど具体的に現れてくるのが衝撃でした。

日米双方の兵士が克明に語る沖縄戦や占領下の沖縄の光景、
玉城洋子さんの米軍ジープに乗せられたエピソードの生々しさ、
石川真生さんが黒人米兵に感じていた共感、
個々の兵士ではなく軍隊というシステムの持つ暴力性への示唆、
普天間フェンスでの攻防のあとに映し出される「本土の空を飛べ」というメッセージ。
「日本人」がこの映画を撮れなかったのは何故か、と思わされます。

一見して感じたのは圧倒的な「日本」(あまり好きじゃない言葉で言うと「本土」)の不在感でした。
もちろん沖縄戦の証言者として元日本兵の近藤さんは出てきます。
だけど、戦中、戦後とも「日本」という国が何をしていたのかをこの映画はあえて語らず、復帰運動が日の丸を掲げるか掲げないかで分断されてもなお、その「日本」が何なのかは見えてこない。
ちょうど安里英子さんが「沖縄にいながら沖縄がわからない」というのと鏡写しのようです。
その作り自体が、静かで痛烈な批判なのだと思い知らされます。

こういう作品はスコアを付けるのがバカみたいに感じるけど、つけないのも何か違うので、相変わらず芸もなく5で。
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