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ユートピアのQTakaのレビュー・感想・評価

ユートピア(2018年製作の映画)
3.5
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童話の世界から、ディストピア、現代日本、そしてユートピアとは。
この物語が提示した風景は、今、私たちが受け止め、考えるべき風景。
今、社会や自分の場所を考える。
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『我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか』とは、ボール・ゴーギャンが作品に残した言葉だ。
漫然と日々を生きたのでは辿り着く事の無い問いだろう。
映画の中で、”ユートピア”に生きてきた若者たちは、自らの生き方や、その社会についてなんら疑問を持つ事は無かった。
ただ一人、そこに疑問を持ち、反逆した少女が物語の発端となる。
社会が明らかにされて行く。
隠されていた社会の事実。
”生かされていた”という真実。
その社会で生きていた私の存在。
知ってしまった自分は、これからどう生きるのか。
若者たちの葛藤、そして選択は、彼らの社会をどうしていくのか。
そして、”生きる”ということと向き合った彼らの姿と私たちはどう向き合うのか。
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童話「ハーメルンの笛吹男」で始まった物語は、とんでもないディストピアを経由して、現代日本へ。
それは、悪魔の仕業なのか、神のもたらした幸福なのか。
「どの世界が良くて、どの世界が悪いのか」と言う問題では無くなってくる。
それぞれが、それぞれに自らの生きる場所を求め、その場所を愛している。
ただ、そこに闇が有る。隠された闇が見えてくる。
となると、その社会の風景が違って見えてくる。
童話と、ディストピアと現代日本。
その三つの世界を絡めながら、生きる事と社会のあり方を問う。
とても良く練られていて、バランスの良い展開だった。
なにせ、セリフの半分は日本語じゃないんだから、よく物語が進んだとすら思う。
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”ユートピア”ってなんだ?
トマス・モアの『ユートピア』。
読んだ事との無い名著の一冊。
その”ユートピア”を踏まえて物語を見ると言葉の重要性に気付く。
それは、『楽園』ではなく、『理想郷』なのだと。
もう少し言うと、”誰かにとって”の理想の世界である。
全てが満たされ、救われる世界では無いということだ。
私にとっての”理想”は、全てを満たす事では無い。
私の希望のみが、社会全体の希望ではない。
自らの社会を良く知らないまま、幸せを追求する事の恐ろしさを知らなければいけない。
この映画の示唆する物の重要性を改めて感じる。
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思った以上に大きなテーマを取り上げた映画だった。
「我々の生きる世界とは?」と問いかける。
精緻に積み上げた脚本の出来がとても良いのだろう。
難解なテーマを童話を絡めて始める事もとても上手い。
見ごたえの有る映画だと思った。
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