dm10forever

blindのdm10foreverのレビュー・感想・評価

blind(2011年製作の映画)
3.9
【ダレノセイ?】

ほんの数分の短編作品。
なのに、出だしの数秒で世界観に引き込まれる。

それは「近からず」「遠からず」私たちが決して他人事とは捉えていない(捉えていてはいけない)こと。

舞台は、ちょっとだけ先の日本。
放射能汚染の影響で、国民はガスマスク無しでは生活できない状況にまでなっていた。
それ以外はいたって普通。
ニュースでは女性アナが「本日の放射能飛散量は~」と定型文のように読み上げ、電車に乗れば女子高生たちは、各々のガスマスクをラインストーンでデコッて楽しんですらいる。

少なくともこの世界では、もう「日常」なのだ。

先日、近くのイオンで何気なく買い物をしていた時のこと。
個人的な用事の外出だったので自分一人で買い物していたんだけど、丁度おもちゃ売り場の近くを通っていたとき、「~なお、新型コロナウイルス感染拡大防止の為、お買い物はなるべくお一人、もしくは少人数で~」みたいなアナウンスが流れた。

おもちゃ売り場に?大人が一人で?若しくは子供一人で来いと?
勿論ありえない事もないけど、オモチャ売り場で聞くには何とも違和感のあるアナウンスだった。
それと同時に、何気ない日常って案外脆いもんなんだな・・・って思った。

でね、後日息子と外出した時にやっぱり思ったんです。
この子が世の中に出て色んな物を見て、色んな音や言葉を聞いて、いったい何を感じているんだろう?
今までは何気なく見えていた表情がマスクで見えない。
(今、この子は何を思ったんだろう?)
ちょっとした表情の動きすら見えない・・・
ボソッと呟いた独り言が聞えない・・・
こんなに近くにいるのに、この子の日常的な瞬間が共有できない。

誰が悪いわけでもなく、人間は生きるために「何気ない日常を放棄」する選択をした。
それは10年前のあの頃と重なる。

大人が選択した「異様な日常」は、子供たちから表情や声を奪っていく。



奇しくも今作は10年前に製作された作品。
そして節目となる10年後、よもやこの作品が「過去」でも「未来」でも「パラレルワールド」でもなく、こんなにリアリティを持った話になろうとは誰が想像しただろうか。
原因が「放射能」かどうかが問題ではない。

本当の弱者は老人なんかじゃない。
いつも「制約」を与えられ、「笑顔」を奪われるのは子供たちなのだ。
我慢を教えるはずの大人が我慢を忘れている頃、子供たちはひたすら大人たちから言われた通りに我慢を続けているのだ。

それでも大人は気がつかない。
全ては自分のことじゃないから。
何故か何の根拠もデータすらもないのに「自分は大丈夫」と言えてしまうから。

でも・・・。
自分の手の届かないところで、自分の家族が「大丈夫」である保障は1mmもない。

赤い服の少女の演出は「シンドラーのリスト」を思わせる。
みんなガスマスクをつけて表情がわからない異様な世界にあって、たった一人で電車に乗る少女。
真っ赤なワンピースに小さなポシェット。
少女の存在感だけが際立って儚く映る。
この子はいったい・・・。

たった5分の作品でありながら、中に詰まっているものは意外と多い作品。
時期的にもタイムリーなこともあり、いろいろと考えてしまった。

『現実に目を閉ざすものは、未来に盲目である』
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