手や足や口や耳なんかの奥に私があって小宇宙をかたどっている。
陸上部だから体を酷使することもできるけど、心の空虚感は去らない。
私って何?
そんな大人になる前の不安や悩みを掠めとるように機敏に描き撮った清澄感あふれる一作。
みちるは陸上部のエースでありながら「自分」に自信が持てず彼氏に体を噛んでもらうことで充足感を得ている。
鼻を震わせるように彼女は同じ匂いを嗅ぎつける。
部員に厭われ孤立感に苛まれる部長の新田。
二人は惹きつけられるように距離を縮めていく。
描かれているのは将来への不安。
ぽっかりとした虚無感。
世界は見えてるんだけど視点となる私は何って感じ。
二人とも進路調査票が提出できないけど、他のみんなも虚しさのカケラを撒き散らして。
リストカットとかシールを街中に貼るとか。
そんなどこにも行き着かない虚しさを、分かり合える者同士助け合う姿が美しい。
月の満ち欠けと二人の心情がリンクすることで作品に奥行きが生まれ、地平線の果てに立つ寂しさと秋風を切り抜いたような涼やかさを覗かせている。
新月の日に込めた祈り。
思いが届きますように。
小品ながら胸を打つ快作。
心がみちていく。