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みちていくのlpのレビュー・感想・評価

みちていく(2014年製作の映画)
4.7
田辺・弁慶セレクションにて鑑賞。セレクションの開催期間中はテアトル新宿に通い詰めていたけれど、今作を通じて竹内里沙監督と出会えたことは、現段階で今年最高の衝撃だ!
何故なら、この『みちていく』はとてつもない傑作だった。一言で今作を表すと、「僅か90分で青春の全てを表した映画」になるかな?

映画の主人公は、同じ陸上部に所属する2人の女子高生。1人は厳格な部長の新田。もう1人は短距離のエースのみちる。同じ部活に居ながら微妙に距離がある2人の関係が、互いの内に秘められた歪みを知ることで変化していく・・・という話。

秘密の共有により特別な関係、人の上に立つことと支配の誤認、初めての挫折、居場所が無い不安など、若さゆえに承認欲求やアイデンティティが揺らぎがちな「青春」の一面を、新田とみちるの姿から描き出す。
2人の関係が「秘密の共有」という少し子供じみたものから、各々のドラマ(と言うか通過儀礼)を経て成熟した関係になっていく展開が美しい。

恐るべきは今作を撮った時の竹内監督の年齢。21歳の若さで今作を撮ったというから驚き。監督自身が「女子高生」と比較的に近い年齢だったにも関わらず、「女子高生」を適切な距離感で分析・客観視している。仕事を巡る描写など、話の本筋と少し離れた部分では、監督の若さが滲み出るシーンも瞬間的に存在する。しかし、みちると新田の2人の女子高生を巡る描写は、達観した大人な視点で統一されている。
しかも、まとめられたストーリーは普遍性のある話に着地していて、上映時間も90分以内。冷静に考えて、この仕事は凄い。

月の満ち欠けや、宇宙と実存を巡る話を映画のアクセントに加えたり、「絆創膏」「日記」「シール」といったアイテムの使い方など、竹内監督による演出は正統派で真っ当なもの。

唯一気になったのは、物語の寓話性を高めるシーンの挿入が、やや強引に映ったことぐらいか。しかしこれもまた、竹内監督のキャリアの浅さを踏まえれば、十二分に許容範囲内。

竹内監督は「大学の卒業制作」として今作を撮ったということだけど、とても卒業制作だなんて思えない、充実した傑作でした。
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