うめ

ディーパンの闘いのうめのレビュー・感想・評価

ディーパンの闘い(2015年製作の映画)
3.7
 去年の第68回カンヌ国際映画祭。批評家達から絶賛された『キャロル』、カンヌお馴染みのパオロ・ソレンティーノ監督の『グランドフィナーレ』といった面々からパルムドールに選ばれた本作。この時の審査員がコーエン兄弟ということで…コーエン兄弟好きな私としてはどんな作品なのか気になって(笑)、観てきました。疑似家族としてフランスで生活し始めた3人のスリランカ難民の姿を描いた作品。

 これまでジャック・オディアール監督の作品を観たことがなくて、今作が初鑑賞。冒頭"DHEEPAN"とタイトルが出るシーンからもうかっこいい。あの流れるようなストーリーの導入や現実と夢が入り交じるシーンはどこかフランス映画の印象を与えるのだが、全体的にサスペンスのような空気が漂っているのがとても個性的だった。主人公のディーパン、妻役のヤリニ、娘役のイラヤルの3人が住むのは、パリ郊外、ギャングが辺りをたむろしている古ぼけたマンション。そこでの彼らの視点は、覗き込むようなカメラアングルとなって映像に映し出される。窓やドアから警戒して、あるいは不安そうに人々を見つめる彼らの視点は、まさに難民の様子を表している。またマンションの屋上には常にギャングの若者がいて、彼らがディーパンたちを覗き見ている様子も描かれている。つまり一触即発のような、ピリピリした空気が流れているのだ。

 そうした空気の中、なんとか「普通の暮らし」をしていこうとする3人の疑似家族は次第に距離を縮めていく。この描写は何とも微笑ましい。一瞬の安らぎ。例え赤の他人同士で作り上げた偽の家族でも、共に過ごすうちに解けていく心の緊張。ストーリー展開としてはありきたりだけれど、この描写があったのは前後の展開と呼応していてすごく良かった。

 去年は今まで以上に難民問題が採り上げられ、私もそうした問題に触れる度にあれこれ考えたのを覚えている。そうした記憶や感覚がまだ残っている今の時期にこの作品に出会えたのは、とても幸運だった。今作では難民の現状について説明的に語ったりはしないが、ディーパン、ヤリニ、イラヤル、マンションの住民の姿を通して、いかに難民問題が複雑な背景を持っているかを感じさせてくれる。正直、スリランカの内戦状況などほとんど知らなかった。それを今回の作品を通して知ることができただけでも、観る価値はあったのだと思う。

 難民といった社会的な題材を扱っているのに対して映像や展開はややドラマチックであったため、序盤は困惑したが、後半の畳み掛けるような展開は面白かった。今、観て欲しい一作。
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