櫻イミト

神のゆらぎの櫻イミトのレビュー・感想・評価

神のゆらぎ(2014年製作の映画)
2.0
“エホバの証人”の信徒カップルなど4組の運命を描くヒューマン群像劇。監督はカナダのMVテレビ畑出身のダニエル・グルー。原題「MIRACULUM(奇跡)」。

4組の人々の物語を時系列を組み替えて進行する。①共に“エホバの証人”信徒である白血病の男(グザヴィエ・ドラン)と看護師の婚約カップル。②老境にありながら情熱的な不倫を続けるカップル。③お互いへの愛を失っているアル中の妻とギャンブル狂の夫。④姪との過ちを償うためドラッグの運び屋で稼ぐ男。この4組の物語が現在と過去を往来しながら、終着点-墜落するキューバ行きの飛行機へと向かう。。。

キリスト教の勉強を兼ねて聖書関連作を毎週一本観るのを1年以上続けている。その中でも本作は最も思慮の浅い内容だった。

“エホバの証人”といえば輸血拒否がスキャンダラスに有名だが、裏を返せばプロテスタント系の中でも突き抜けて信心の深い流派と言える。自分の取材経験から言えば、彼ら信者にとって輸血拒否は信仰の基本要素であり、本作のような悩み方をするのは非常にイレギュラーに感じた。つまり本作は、固有名詞を出す上で必要最低限な取材をせず、スキャンダルから受ける極端な印象だけとらえて利用しているように見える。

その疑念が確信となったのが、もったいつけて提示される「飛行機が落ちるのは、全能の神が存在しないからだ」との文句。聖書の文脈で“神”を否定する場合に、これほど軽薄で見当違いな文句を堂々と提示されても困惑するしかない。神が人間の自由意志に介入しないのはキリスト教の基本教義だ。本作スタッフは“エホバの証人”どころか“聖書”さえまともに把握していないことを露呈している。

※信徒を演じたグザヴィエ・ドランのインタビュー
「僕自身、幼い頃に厳格なカソリックの祖母に連れられて教会へ通っていた経験があることから、何かを強く信じる人間の心について理解がある方だと思います。ですから、信仰心がある人間を演じるのは僕にとって難しいことではありません。」

この、あまり解ってないのに自信ありげな姿勢が本作を象徴しているように思える。一事が万事で、それぞれの群像劇も底が見え透いて浅はかである。

個人的に、”知ったような語り口”が嫌いなのと、時系列を組み替えた非線的構成に小賢しさばかりを感じたので、好きな人には悪いが低評価をつけさせて頂く。

※グザヴィエ・ドランには今まで注目していなかったが、一部からカリスマ的人気があるようだ。本作の監督はダニエル・グルーなのに「ドランの映画」と語られているのは、監督は村川透なのに「優作の映画」と言うのと同じようなものだろうか?彼の監督作を観たことがないので近いうちにカンヌ受賞作を鑑賞したい。
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