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グランドフィナーレのfujisanのレビュー・感想・評価

グランドフィナーレ(2015年製作の映画)
3.4
”グランド・フィナーレ”とは、演劇用語で舞台芸術の最後の場面、物語の大団円を指す言葉。

本作はまさしく、”人生の大団円”をどう迎えるかという映画でした。

舞台はスイス・アルプスの超高級ホテル。
スポーツや映画界をはじめ、かつての成功者達が優雅なバカンスを送っており、映画の主人公フレッド(マイケル・ケイン)もかつては世界中に名の知られた音楽家です。

共に過ごす長年の親友、映画監督のミック(ハーヴェイ・カイテル)は若手脚本家達と活動的に過ごしていますが、フレッドは音楽界を完全に引退し、医者から”無気力症”と言われるほど、毎日やることもなく無為に過ごしている状態。

滞在しているセレブ向けのホテルの客は、金も暇もある富裕層の高齢者がほとんどですが、老人ホームではないため、若くしてハリウッドで当たり役を演じた俳優ジミー(ポール・ダノ)、ミス・ユニバースと呼ばれている若い女性など、少ないながらも、若い人たちが滞在しています。

つまり、80前後の高齢者と、20代がホテルで同居しているような状態。

そんな中で、かつての有名音楽家フレッドのもとに、イギリス・エリザベス女王からの演奏依頼を携えた使者がホテルを訪れます。しかし、フレッドはそれを度々頑なに拒絶。
そんな頑なな態度をとるフレッドには、深い理由があったのでした、、、という話です。



この映画では、大きな成功を成し遂げたセレブ達が登場します。
成功の裏で、多くのことを犠牲にしてきたことに気づくのに遅れ、人間関係や、次の熱意のかたむけ先がないお金持ち達。

本作は、人生の大団円(グランドフィナーレ)をテーマにした映画ではありましたが、老境を生きるためのテキスト、指南書ではなく、この映画を観た若い世代の人たちが、この映画の登場人物達から何を感じ、ここから逆算して今をどう生きるべきか、を考えさせれてくれる映画だったと思います。


ホテルには、様々な舞台で輝かしい成功を収めた成功者達が滞在しているのですが、皆、無気力。

彼らはその成功が自身の気力・体力のピークで成し遂げたものであることを誰よりもよく理解していて、それ故に、自分の人生でもうそれを超えることはできないことを一番よく知っています。

成功によって富は得ており、ホテルには医療設備や医療スタッフも完備。毎日マッサージや医療検査を行い、昼は温浴施設でリラックス、夜はプールサイドでショーを見て早めに睡眠と、ある意味、死ぬことも出来ない状態。

劇中、フレッドが医者から検査結果を聞き、『何一つ悪いところはない、馬並みに元気ですよ』と言われても、まったく嬉しそうな表情をしないところが印象的でした。

映画では、そんな超高級ホテルでの日々が淡々と続くのですが、一緒に滞在する若い人たちの行動や考え方がスパイスとなり、徐々に、それぞれのグランドフィナーレに向かっていくという、静かながらもよく出来たストーリーとなっていたと思います。

撮影は、実際にあるスイスの五つ星ホテルで撮影されているらしく、豪華なホテル映像を楽しむ映画としても面白かったです。



考察を兼ねて:

自分事として考えても、人間って面倒くさいな、と思います。

若い頃は『自分は何者なんだ』と悩み、
その後の充実期では体力はあるものの財力がない。

気力・体力・財力、全てバランスする時期は本当に一瞬で、
中年になると『自分はこんなものではないはずだ』と
”中年の危機”で悩み、

微力な自分をようやく理解すると、今度は
『何のために自分は生まれてきたのか』を自問することになるのでしょう。

それすらも脱し、自分なりの答えを見つけ出した時、
ようやく、あとは楽しむだけという心境になれるのかもしれません。

でも、生きるために困らない程度のお金は必要として、
それよりもどちらかというと、話し相手であったり、熱中できるもの(暇つぶし?)が必要なんでしょうね。。😅


この映画は、
パオロ・ソレンティーノ監督からの「君たちはどう生きるか」

色々、考えさせられる映画でした。




2023年 Mark!した映画:327本
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