グラッデン

サウルの息子のグラッデンのレビュー・感想・評価

サウルの息子(2015年製作の映画)
4.4
東日本大震災の後、「ダークツーリズム」という言葉を知りました。ダークツーリズムとは、戦争や災害のあった跡地を巡り、従来はレジャーの一環である観光を学びの場に置き換える行動のことを指します。

強制収容所でゾンダーコマンド(囚人でありながら収容所の仕事に従事する人間)として携わる主人公・サウルの視点から描かれた本作は、鑑賞者にとって、ある意味ではダークツーリズム以上の映像体験を得られたと思いました。

そう言いたくなるくらい、スクリーンでは、生き地獄のような、事実に即して描いていたとは考えたくないほどの強制収容所のおぞましい光景が次々と描かれます。覚悟はしていましたが、正直言って、最初の数分でスクリーンから目を背けたい気持ちにさえなりました。

しかし、実際には自分でも驚くくらい食い入るように集中して最後まで見ていました。そのような構図を作る上では、本作で監督が用いた撮影アプローチの効果は絶大であったと思います。とにかく「大胆」の一言に尽きますし、スクリーンで見てよかったです。

本作を観終わった後、昨年の夏に見た塚本晋也監督の『野火』のことを思い出しました。あの作品も戦争を経験した国の人々が体験したことを、映像を通じて伝承していくことは大切だと感じずにはいられませんでしたが、本作で再認識させられました。

「目を背けたくなる事実であっても、伝えていかなければならないことがある」。このことが監督が本作を通じて伝えたかったなのかもしれません。