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サウルの息子の346のレビュー・感想・評価

サウルの息子(2015年製作の映画)
4.0
観る前は、重い歴史物なんだろうな。こういう映画は奇をてらったような演出は少ないし、そんな真正面からの訴えに、気圧されちゃうんだろうなぁ。なんて思ってました。

いやぁすごい。
新人監督なんですね。だからか、すごい野心的でびっくりした。
何がすごいって、あの被写界深度の浅さと、限定された画角。そして理解させるつもりのない言語たち。すべてをそう演出することで説明を放棄したあの意図がすごい。

なぜなら、全体像が把握できないのはゾンダーコマンドとして働く彼らそのものだから。そして、わからないままに生きて、死んでいくのだ。
その恐ろしさ。
戦争というものの輪郭を今までにない方法で表現してて、その世界の窮屈さに押しつぶされてしまいそうだった。

そしてそんな世界の中で、死んだように生きていた主人公サウルは、人としての尊厳を取り戻そうとする。彼にとってはそれは反乱でも服従でもなく、死者を弔うことだった。命に価値などない戦争という地獄の中で、彼は自分に残された良心を信じたのだ。信仰といってもいい。すがった。彼は最後に人間を肯定したかったのだ。

そして、その願いは託されることとなる。足掻き終えたサウルの姿は少年の目に焼き付き、そしてその少年の目は私たちの目でもあるのだ。
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