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サウルの息子のTのレビュー・感想・評価

サウルの息子(2015年製作の映画)
5.0
予備知識がないと厳しい映画。
ご覧になる方はせめてこれだけ知っておかれると良いかと。

SSと恐れられた親衛隊も、大まかに分けてもWaffen-SSとSS-TVで任務内容等に大きな違いがあったようだ。
これはwiki等で調べても流れが掴めるだけで、詳細は時代やメディア等によって呼び方が違ったりする。
細分化するとその任務は多岐にわたる上、レームの粛清でよく知られる長いナイフの夜からベルリン陥落まで戦況により前線の政治将校に近い役割だった部隊も、文字通りの親衛隊もあり、拠点としていた某古城は、狼の砦やベルグーホフからも独立していたと聞く。

強制収容所と呼ばれるところでは、囚人によって胸につけられた布のワッペンが違う。
これもメディア等によって見識が違うし、収容所によって差異があったであろう。


結構今でもヤバい内容かつ議論になっている問題なので、調べるのも見るのもかなりの覚悟が必要です。

全体の感想。
とてつもなく酷い世界が淡々と進み、挿入歌も曲も殆ど無い。
が故に、悲鳴と対照的な祈りの声や鳥の声、キツツキの音等環境音が際立つ。

本来、その弱肉強食の自然環境に対して、「人間」なるものは、シェルターをつくり、規則を決めて、生きるためによりあい、そしてどうにもならない時に、生物としてのタブーである共喰いをしてきた筈だ。
そこで初めて「尊厳」なるものが存在するはずである。

本作で繰り広げられる、美しい森の中での二項相反する、「徹底した倹約のもとでの完全なる無駄使い」は常軌を逸している。
漫画「アドルフに告ぐ」やスピルバーグ監督の「シンドラーのリスト」によって描かれた世界を、さらに没入感を深くとり、リアリティを持たせている。

カポーやゾンダーコマンド。
「夜と霧」命令と、その名の通りのヴィクトールフランクルの小説も読んだが、
ここまで人間の尊厳について考えさせられた映画は、今までなかった筈。

ガス室→焼却→遺灰を川に捨てる毎日を過ごし、ある時ガスで死ななかった少年を発見した。
それを実子と思い込んだのか、それとも実際に実子だったのか。そこがキーポイントだと思う。

私は前者だと思う。

彼等は、基本的に火葬を嫌う。モレク(モロク)崇拝に直結するからだ。ましてや子供である。そのことが頭にあったであろう、主人公はひたすらに土葬をしようとする。ひたすらにラビを探す。

最終的には、おそらく彼等が切に願うかたちで少年を見送れた筈だ。砂漠の民ですから。

ラストシーンの主人公の表情はある意味「狂信」である。だが信仰とはそのようなもので、今でもまったく変わらない。

神の存在をただ問いかけたのではなく、彼は信じ抜いた。
ただそれだけの、たった二人にフォーカスした戦争映画。







このSNSで知った、ある方のベストだったので、鑑賞。尊敬しました。

昭和生まれの私の平成最後のレビューとなりました フォロワーの皆様 関係各位様 令和も宜しくお願い申し上げます
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