ジュリアン

ロブスターのジュリアンのレビュー・感想・評価

ロブスター(2015年製作の映画)
5.0
生殖や番が義務化され、そこから逸脱すれば動物に姿を変えられる管理社会。そこでは、自慰は禁止行為であり、パートナーを探すあらゆる行為や社会性が学校化空間で規律化されている。しかも、登場人物たちは独身者を狩らねば、余命を延ばしてもらえないときた。終始シュールな笑いに包まれた、筒井康隆の小説にありそうなナンセンスなSF映画といえる。

ディストピアSFの古典『素晴らしい新世界』ではヒッピー文化が先進的で突き詰めた社会だったが、自分たちが当たり前に思ってる指向も当時のヒッピー文化くらいヘンテコなんじゃない?と問いかけてくる映画だった。

面白いのが、登場人物たちはずっと楽しそうじゃないし、皆何かしら特性傾向の強いユニークな人たちで自閉的な振る舞いだったりする。そんなカリカチュアに満ちた彼らのおかげで、パートナー至上主義も禁欲的な独身生活も行き過ぎればおかしいよねと異化されている。

お互いが近眼だったら、お互いが鼻血が出やすかったらとヘンテコな同質性によって相性の良し悪しを図るシーンには、ちょっと身につまされるものがある。彼らの世界では同質性がなければ愛し合えないのだが、これって僕たちの世界でもバカバカしいことじゃない?とちょっとシュールに突き放されてしまった。