フラハティ

ロブスターのフラハティのレビュー・感想・評価

ロブスター(2015年製作の映画)
3.9
愛は容易に見つけられるものなのか。


ヨルゴス・ランティモスってイカれてるよなとか思っていたが、本作を観る限りそこまでイカれてはなかった。
パートナーを見つけなければ自分が望む動物になってしまうという。
タイムリミットは45日。

共通項があれば、相手との距離を縮めるチャンスである。
逆に接点がなければ惹かれ合うことはない。
無理にでも共通点を見つけなければならない。
あぁ、俺は近視だ。異性愛者だ。人間であってもいい最低限の情はある。


本作の事前情報を何もいれなかったから、ひとつの場所でのゴタゴタで終始するかと思ったが、本番はそこから先だったので上手い脚本だなと思った。
押し込まれた施設から逃れた先の世界でも、私が私らしくいられる世界は本当はないのかもしれない。
誰かに愛されようと、誰かのために演じることは愛することに繋がらない。

異様な世界観のように思えたが、日本も古くはお見合いという文化があったし、なんならもっと古くは政治的に勝手に嫁に出されたりするし、大して異様でもないのか、と結論付けた。
本当に愛する人と結ばれることができるという時代は、結構最近になってからなのかもしれない。
“結婚しなければ何の生産性もないただのカス”という世界はフィクションではなく、現実世界でも発している人間はいるんだよなぁ。
館に閉じ込められるが、それは人間という社会に閉じ込められているのと同義。
人が勝手に作り出した価値観や存在意義に本作は疑問を投げ掛ける。

本作にまともな人間が存在していないように思えた。
が、そもそも人間がもっている本質は僕たちが生きている社会によって規定される。
この世界では、上記のような価値観が形成されるため、現代の僕らが生きていてまともだなと思える価値観と、彼らがまともだと思える価値観は違う。
その相違をどう埋めていくのかが、現代を生きている僕たちが見つめる先であり、自己を殺して相手に寄り添うというのは至極独善的な気持ちにもなる。
だからって自分が日常的にそんな振るまいができているかというとできていない。
本作みたいな世界に閉じ込められれば、目先の生き方に終始してしまうのは当然なんだと思う。
だから自分が選んだ先が本当に望んだものであるのかは、死ぬ間際でしかわからないし、何なら死ぬまでもわからないのかもしれない。


「生まれ変わるならロブスター。100年は生きるし、生殖機能も衰えない。なにより海が好きだから。」
ここで答えが出ているようでもある。
他人に何の動物になりたいか、その理由は?と聞けば深層心理が読み取れる気もするね。
本作のエンドロールで波の音が流れていたが、彼はどんな姿で海岸にいるのだろうか。


※本作のラストのレストランのシーン。
二人越しの窓の外に、幸せそうな家族連れが一瞬映りこむシーンがある。
片や愛の共通項をたどるものがあり、片や関係なく愛する家族がいる。
このワンシーンが、本作における着地点の解のように思える。
無理にでも作り出そうとする愛は、育まれることはなく、自らの首を少しずつ絞めていくことと同意なのだ。
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