すず

ロブスターのすずのネタバレレビュー・内容・結末

ロブスター(2015年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

「どうして嘘をつくの 嘘の上に恋愛関係は成り立たないのに。」

相手を探って偶然や運命を装い、駆け引きをするごとにボロが出て、最終的には別離する。相手にすり寄って自分を偽ることの是非を問う。

お伽話や童話には表面的に取り繕われた親しみ易さの裏側に強烈な皮肉や、教訓めいたメッセージが隠されているもの。この不思議な物語の表書きは、期限内にカップルになれなければ動物にされてしまうよというもの。かわいい。本当に童話でありそう。

恋愛リアリティショーさながら、はたまた危ない団体の集会映像のよう。レクリエーションが行われ、生歌に合わせて踊る。サイレンが鳴ればバスに乗り込み、クラシカルな美しい旋律を背景に暴力と殺戮の森へ向かう。ほんと狂ってる。

だいぶ狂気に覆われてはいるが、作品のコンセプトは日常にありふれた光景を風刺的な視線で捉えている。男女関係の始まりと破綻。男女が出会って一緒になることが如何に不可思議なことで、奇跡的なことか。そして、それにあぶれる者。独り身は罪なこと。繁殖して栄えるという生物の根幹に反する。文明社会に生きる資格を有するカップルと、森に隠れて暮らす野蛮なシングルという位置付けが取られている。そのような世界で、必死でパートナーを探してカップルになる者、森へ逃げ出す者、人間でいることを諦めて動物になる者、自殺する者が出てくる。現実と照らしてみてどうだろう。

メガネでもコンタクトでも同じ近視だ!正真正銘、嘘偽りのないお互いの共通点にすがりたがる人々。似た者同士が結びつく。そんな単純な事実でしか繋がりを確信できない。個々の本質的な共通点なんて最早ないに等しい。そんな中で、愛は自分を偽らないことなんだと、失明した彼女が示してくれる。共通点なんて重要じゃないし、自分本位でなく相手を思いやる優しい嘘の上には恋愛関係は成り立つ。

ニックケイヴの野バラを歌う主人公。最後の日にスタンドバイミーを観てポニーになった女性。前作にもロッキーやジョーズなどの話が出て来たり、監督の趣味をもっと知りたくなる。残酷でコミカルでオシャレな変態のルーツ。ほんとに、普段から何を考えて暮らしているんだろう。

相変わらずラストが秀逸だった。独り残されて座るレイチェルワイズの長回し、ガラス越しに見える何気ない街の風景、老夫婦が通り過ぎて、暗転する。THE LOBSTER。海の音。コリンファレルはどうなったのか想像が広がる。全部意味ありげで、思うことたくさんで纏まらん。長くなっちゃった。見る度に発見がありそう。
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