メキシコとの国境町エル・パソで国境警備の仕事に就いた元警察官のチャーリー(ニコルソン)は、日々繰り返される不法入国者と同僚のキャット(カイテル)ら一部の警備隊員たちとの間で行われている裏取引きを知り愕然とする。
チャーリーと妻マーシー(ペリン)のような中流階級を含む裕福なアメリカ人がいる一方で、まだ少女のような母親マリア(カリーロ)と弟ファン(ビエスカ)のような貧困生活に悩み、やむ無く国境を越えざるを得ないメキシコ人がいる現実問題を、『ホテル・ニューハンプシャー』のイギリス人監督トニー・リチャードソンが痛烈に風刺した社会派ドラマである。
メキシコからアメリカへ越境する人々をモハード(濡れた人)と呼ぶという。
英語でウエット・バック(濡れた背中)と呼ばれる彼らは、国境を流れるリオ・グランデ川を文字通り、身体を濡らし、命を懸けて渡ってくるのだ。
ラスト、リオ・グランデ川の真ん中で微笑み合うチャーリーとマリアのボーダー “境界”は近くて遠く、今も多くのモハードたちが行き来している…これもまた現実である。
239 2020