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さらば冬のかもめのnetfilmsのレビュー・感想・評価

さらば冬のかもめ(1973年製作の映画)
3.8
 寒々とした冬の光景のノーフォーク基地、統率された海兵たちの行進、そこに「バダスキーはいないか?」と突然声が鳴り響く。勤務外だったビリー・バダスキー(ジャック・ニコルソン)は既に眠りこけていたが、若い水兵に叩き起こされる。そして次に若者はミュール・マルホール(オーティス・ヤング)を呼びつけ、先任衛兵伍長が呼んでいると伝言する。うんざり顔の2人を前にして、上司は「お前らは運のいい奴らだ」と言い放つ。罪を犯した新兵をポーツマス海軍刑務所に護送するよう命令される。福祉好きの隊長夫人の募金箱から金を盗もうとした男、ラリー・メドウズ(ランディ・クエイド)を護送すること。盗んだ額は僅かに40ドルだったが、募金箱がたまたま司令官夫人が設置した物であった為に懲役8年を言い渡され、青年期の殆どを刑務所で棒に振る計算になっている。バダスキーとマルホールの2人がポーツマス刑務所に囚人を護送するために設けられた期間は1週間。しかも3人の日当付き。護送にかかる時間は僅かに2日間のみで、残りの時間を束の間の休暇に当てようと算段する2人は、喜んでメドウズを護送する。

 ノーフォークからワシントン、ニューヨークを経由し、ボストンへ。バスとタクシーと列車を乗り継いでの3人のロード・ムーヴィーの幕が開く。最初は2人の護送官で先輩に怯え、自分が出せずにいたメドウズだったが徐々に2人に心を開き始める。一方、最初は無口な18歳を得体の知れない男だと見なしていたバダスキーとマルホールの2人も、青春時代を棒に振る若者に対し、情が湧いてしまう。チーズをとろとろに溶かしたハンバーガーとビール、バダスキーが教える手旗信号の所作、先輩を殴れない臆病なメドウズの大胆な行動、世界一美味いソーセージ・サンド。時計に「通信班長」と彫ってもらった18歳のメドウズの思いは、2人に優しくされればされるほど、俗世への未練が絶ち切れなくなる。日系の宗教にハマった女性のカナダへ逃げての言葉に一度は躊躇した若者は、然し乍ら初めて娼婦を抱き、童貞を捨て去ったことで自由な世の中をあらためて渇望する。その乾いた欲望を抑え込むような2人の暴力は然し乍ら、敗北を知る人間のぬくもりに溢れている。大きな不条理やシステムの矛盾に立ち向かう3人のおかしな1週間は、自由とは何かをあらためて我々に訴えかける。
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