大道幸之丞

オーバー・フェンスの大道幸之丞のネタバレレビュー・内容・結末

オーバー・フェンス(2016年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

何気ない日常を描くドラマに出るオダギリジョーの姿が好きです。

佐藤泰志作品の映画化をライフワークにする函館のミニシアター「シネマアイリス」支配人の菅原和博が『きみの鳥はうたえる』『草の響き』同様に企画・製作・プロデュースを手掛ける。感心するのはローカルどっぷりなその背景を少しも出さず、常に旬の主演俳優と監督を組合わせるところだ。

原作者の佐藤泰志は自らが自律神経失調症に悩まされていた事もあり、登場人物が精神疾患を抱えていたり、狂気を孕んで登場する事がある。それが彼の作品の味になっている。そこを「観る時の心構え」として持っていたほうがいい。

それに佐藤作品では目の動きや僅かな仕草に心情が投影されており、演出も俳優も課せられるレベルも相応に高い。

本作も田村聡(蒼井優)が天真爛漫なのかPTSDなのか、天性の狂気的体質なのか、彼女のキャリアの中でも恐らく重要になるであろう難しい演技に挑んでいる。

——この物語はタイトルがストーリーを象徴している。それはラストに繋がるのだが、まず函館という街はキリスト教の街でもあり、西洋風な建築物もあるし坂も海も多く絵になる景色がそこらじゅうにある。

しかし東京に比べると2周遅れぐらいで、人生に走り疲れた者にはちょうどよい環境なのかもしれない。今回オダギリジョー演じる白岩義男は函館生まれで、東京で結婚し子供も生まれ、しかし離婚を機に函館に戻ってきている設定だ。

職業訓練校がこの作品の舞台といえるのだが、年金生活者から20代までと、世代がバラバラのまま授業を受けている。皆失業手当が延長されることを目当てに通っている者も多く、自らの意志で通っているが、そんな自身を半ば嘲笑している様子もある。そして北海道全体が現在もそうであるように、夜の娯楽は酒を呑むかカラオケぐらいしかない。

職訓の仲間は一様に互いにまだそれほど信頼関係がなさげなのに、棘のある言葉遣いが多い。いつ喧嘩が起きてもおかしくない程に「ガサツ」と言えばガサツ。

白岩は離婚そのものに関しても、子供と離れて暮らすことに関しても自身ではまったく整頓も出来ず納得も出来ず内面では爆発しそうでもあるが、毎日350mlの缶ビールを2本呑み緩和するのが精一杯だ。そんな彼の内面も知らず人当たりよく見える彼を周囲が呑みに誘う。大概はやんわりと誘いを断るのだが、呑みの場になるとやはり好戦的な態度が出てしまう。

白岩の妻尾形洋子(優香)と白岩との間にある見えないものと聡の愛情模様がどう感じられるか。やはり自分は佐藤作品が好きだ。