ごろちん

蜃気楼の舟のごろちんのレビュー・感想・評価

蜃気楼の舟(2015年製作の映画)
4.1
「生きる希望」を描く映画は数多くある中で、「生きることの無意味さ・虚しさ」をテーマに描いている作品はそれほど多くない気がする。戦争映画のように生への強い執着から反転して虚無感に苛まれる兵士を描く作品はあっても(こういう映画は好き)、原因も分からず最初から虚無感を抱えている人たちを描いたものは個人的にぱっと思い付かない。

ここに出てくる登場人物たちはまさに虚無感の塊。ホームレスしかり、そのホームレスの生活保護費をピンハネする悪徳業者の男しかり。彼らに「生きている意味とは?」と質問をしたら間違いなく「生きていることに意味なんてない」という答えが返って来そう。

この「生きている意味とは」という質問の答えについては、それこそ人それぞれで「家族のため」「趣味のため」「仕事、あるいはボランティアのため」「世界平和のため」など様々。反対に「生きていることに対してなぜ虚無感が生まれたのか」という原因については、ある程度答えは限定されるのかも。この作品を観て竹馬監督は既にその答えを持っているように思えた。

あと特筆なのが心象描写の巧さ。生きていくことに無気力・無関心で感情を持つ気力すら無い彼らの内面を色と音の無い景色で表現している。静謐で絵画のような映像は美しい反面、無機質にも感じられて空虚な世界を印象付けている。

正直アート色が強くて分かりにくい作品ではあるけど、言葉では表しにくい心象を映像で表現した稀有な邦画だと思う。
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