千年女優

この世界の片隅にの千年女優のレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
4.5
第二次世界大戦という激動の時代に広島県広島市に生まれ育ち、終戦の前年となる1944年に軍港のある同県呉市へと嫁いだ女性すず。マイペースながらもどこか憎めない性格の彼女が、嫁ぎ先での様々な人間模様を築き、抗えぬ理不尽な現実に振り回されながらも懸命に生き抜く様を描いた、こうの史代の同名漫画を原作とするアニメ映画です。

片渕須直監督が見事なアニメ化で原作の持つ絵柄だけでなく物語そのものを再現する一作で、難しく考えることは何一つなく素晴らしい作品です。能年玲奈が声優を務めるすずという主人公が、戦時中の深刻な状況にあっても前向きで明るいほのぼのとした雰囲気に心温まり、そんな彼女にもやはり訪れてしまう悲劇には胸が締め付けられます。

「木を見て森を見ず」という諺があります。それはひとつの真理であり、対して本作で描かれるひとりの女性の生活は戦争や国家という巨大な『世界』と比べてしまうとあまりにちっぽけな『片隅』です。しかし、それは平和という人類が希求してやまない青々とした森林を育むにあたって、決してないがしろにすべきでない尊い枝葉なのです。
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