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この世界の片隅にのchiseのネタバレレビュー・内容・結末

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

クラウドファンディングで何かと話題になっていた映画だったので、気になって観賞しました。

とても心温まる戦争映画でした。
戦争映画というと、もっと空襲の恐ろしさや戦時中の貧困、国のために戦う兵士などの描写が多いのかと思いきや、全然違いました。
どこにでもいる平凡な少女が、ごく普通に毎日を生きていこうとする様子を戦時中というあくまで時代背景の中で描いている、どこか不思議な感覚になる映画でした。

作品中で印象強かったのは、全体的に「死」に対する描写が薄められていたこと。戦争に行ったまま亡くなったすずさんの兄、最終的に原発で亡くなった父と母、その他にも息子を兵隊に取られたと話す女性など、そこまで嘆き悲しむ様子もない。晴美の死をもって初めて、人間らしい負の感情を剥き出しにする様子を見て、誰もが悲しみを乗り越えて「普通に生きていく」ための努力をしていたのだと気付かされました。

義理の姉である律子さんは、仕事も家庭もうまくいかず離婚してしまい、さらには最愛の娘を失ってもなお「でもこれがうちの選んだ道」と言っています。すずさんは「普通に生きていく」ためのツールであった右手を事故で失ってしまい、絶望の淵に立たされてもなお、その苦しみを受け入れて生きていこうとしています。
どんなに苦しい状況の中でも、その時代を強く生き抜いた人々がいたということ。その人たちがいたからこそ、今の日本があって私たちが生きているということを忘れてはいけないと感じました。

また、どんなに辛く悲しいことがあっても"心の拠り所"がある、また"自分も誰かの拠り所になっている"と思えるだけで、人はまた生きていける、ということも伝えたかったのかなと。

▼印象に残った言葉
・「過ぎたこと、選ばんかった道。みな醒めて終わった夢と変わりゃせんな。」(北条周平)
・「ありがとう。この世界の片隅に、うちを見つけてくれて。」(北條すず)
・「でもそれがうちの選んだ道」(律子)

「今を生きる」ということの尊さを改めて教えてくれた映画でした。
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