円柱野郎

この世界の片隅にの円柱野郎のネタバレレビュー・内容・結末

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

戦局を描くマクロな戦争映画の対極にある、戦争という時代を生きたある人物を描いたミクロな戦争映画。
この作品はその極北にあるわけだが、これほど心揺さぶられる物語もそうもない。

冒頭、描かれるかつての-昭和初期の広島の活気あふれる街並み。
観客はその後この街がどうなったのかを知っている。
普通に日常を生活していた人たちが、この街でどうなったのかを知っている。
この映画は、その様に“普通に生活していた人”たちが、戦争という時代なりの工夫で倹しくも生き生きと暮らしている姿をアニメーションとして活写し、そして同時に時代の残酷さというものを痛感させてくる、とても素晴らしい人間の物語になっていると思った。

原作は5年ほど前に読む機会があって作品としてもとても気に入ったのだけど、同時に日常の積み重ねがあってこそ、空襲や原爆という出来事が主人公に与える転換への重みにかかってくる話でもあると感じた。
なので、約2時間という時間制限のある映画という媒体でどこまで出来るのかという不安もあったのだけど、片渕監督は見事に要約しつつ主人公の物語を紡いでくれました。
描かれる世界は、原作を読んでイメージした世界そのもの。
まあ序盤の流れはやや断片的だし、あっという間に時間も進むのだけど、それがかえって作品のテンポに貢献はしているかな。
のんびり目な主人公のキャラクターと対照的なカッティングのキレはメリハリになっていたと思う。
そして戦中の空気にあっても、その世界は日常のちょっとした可笑しみにあふれていて、実にやさしい。

だからこそ、終盤にやってくる主人公の運命がキツい。
彼女の暮らす風景を切り取って写し描いてきた主人公の右手。
その失った右手は、彼女にとってのそれまでの世界が無くなってしまったことの象徴でもあるが、その現実の中で怒りとも後悔ともつかぬ押し寄せる感情の波が辛い。
しかしそこを描き切ったからこそ、この映画は成功だろう。
8月6日の義姉と主人公の会話は、キャラの対比を上手く使いながら主人公の決心を引き出していて上手いなあと思った次第。
それがあの閃光の直前だったからなおさらだが。

それでも続いていく日々。
多くの人がいなくなったけれど、まだ厳しい時代かもしれないけれど、主人公たちは生きていく。
その姿に心打たれる。
円柱野郎

円柱野郎