たなかり

この世界の片隅にのたなかりのネタバレレビュー・内容・結末

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

原作のファンでずっと公開を楽しみにしていた。原作では分かりにくいと感じていたシーンも上手く分解再構築して時系列に乗せていたため混乱なく見られると思う。

肝心の本編についてだが、まず音と映像の調和が素晴らしい。すずさんとその周囲の人々が作り出す優しい空間にずっと浸っていたいと感じさせてくれる。

時折入る緻密なミリタリー描写も素晴らしい。3Dのようなリアルな爆弾が投下されたとき、温もりに溢れていた世界に初めて現実の非情さが降り注ぐような衝撃を覚えた。兵器という異質をタッチを変えて描くことでより異質であるこを自覚させ、優しい世界の色彩をより際立たせる。巧みな演出だと感じた。また「広島市の回覧板が落ちてきた」という呉を行き交う人のさり気ない一言からも原子爆弾の威力の凄まじさが感じられる。こういった細かい台詞や動作からこの世界の片隅にのあらゆるものに立体感が宿っていく様は観ていて心地良さを感じた。熱心な取材の賜物だと思う。

色々書いたが魅力はまだまだ語りつくせないほどある。私は上映中に3回、その後も公園のベンチにうずくまり30分は泣いていた。それくらいパワーのある映画だ。

誠実に描かれた世界と、愛おしい、本当に愛おしい人々をぜひ多くの人に見てもらいたい。
たなかり

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