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この世界の片隅にのnikegmのネタバレレビュー・内容・結末

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

本作で重要な位置を占めているリンさんのエピソードをだいぶ省略してしまったために、「この世界の片隅に」というタイトルの意味や後半のセリフ、展開の一部が意味不明になってしまったことが、とにかく残念でなりません。

エンドロールのあとに少し流れるので、件のシーンも作られはしたのでしょう。
おそらく尺の都合でカットされたと思われますが、ポリティカルにインコレクトなセリフやシーンが多いので(「(水原さんに抱かせようとしたのは)うちに子供が出来んけぇ ええとでも 思うたんですか?」とすずさんが周作さんに詰め寄るところとか、男の子を産むのが嫁の義務だとか、女の子の方が高く売れるとか、はたまた周作さんとリンさんの関係を知ったすずさんがセックスできなかったりとか)、もしかしたら現代のPC的にマズイからでは…と勘繰ってしまいました(知り合いの女性は原作を読んだ際に、すずさん同様、リンさんのことがいつまでも心に引っかかってしまい、途中まで素直に作品を評価できなかったといっていました。あのエピソードさえなければ…とも。もちろん、最後まで読んだら感想は変わったそうですが)。

さておき、のんさんは間違いなく素晴らしい演技をしていました。もう原作を読んでものんさんの声以外聞こえません。
絵柄はほのぼのしつつも色気があり、かつあか抜けていて、美術は想像を絶する緻密さ。片渕監督をはじめスタッフの皆さんは、とてもレベルの高い仕事をされていたと思います。

特に空襲の描写などは秀逸で、砲弾の破片があんなふうに容赦なく飛んでくるのかと、はじめて知りました。かつて戦争があった私たちの国で、人々はなんという酷い目に遭っていたのか。

それでも空は青く、白い雲は何事もないように緩やかにうつろいで行く。タンポポは風にそよぎトンボがホバリングしている。
生の儚さと美しさが同時に描かれており、戦争のある日常ってこんなふうだったのだろうかと、それを知らない世代にも十分に伝わってきました。
すでに叶いませんが、祖父や祖母が存命だったら、ぜひ一緒に観てみたいと思わせる映画です。

いつの日にか、リンさんのエピソードを入れた「完全版」が公開されることを期待しているので、本作は辛めの点数で。
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