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この世界の片隅にのasayowaiのレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
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2016年は邦画の年だった。出不精な自分が劇場でみた数少ない映画でも『ちはやふる』、『シン・ゴジラ』、『君の名は』などたくさんいい映画があった。ただそのなかでも映画納めに見た本作はぶっちぎりの出来だった。見終えた後すぐに原作を買いに走り、二度目の鑑賞に備え、早速年明けに2回目。こうのさんもすごいし、のん(能年玲奈)もすごし、片山監督もすごい。そしてマイナーだった本作がしっかり評価されて着々と上映館が拡大された日本のマーケットもすばらしい。拡大した後になってようやく観にいった自分を恥じるばかり。
 
身も蓋もないこというと、原作がとにかくすばらしいんだよね。原作と映画は別物として考えたいけどこれに関しては不可分だと思う。原作の魅力抜きには語れないし、ストーリーと音・動きのシンクロ率が半端ない。

 まず自分なりに原作を一言で解釈すると、あの時代の広島を「HIROSHIMA」ではなく「広島」として語る、ってことだと思う。イデオロギーを極力混ぜずに浦野/北條すずという少女の衣食住を描く。つまり、あくまで物語の中心はすずの生活。作中で幼なじみの水兵が「すずの普通さ」を尊ぶ場面があるが、イデオロギーによって容易く消えてしまう「普通」の儚さを訴えるとともに本作の立ち位置を表明するようなシーン。すずはおっとりした天然キャラだ。戦時下においても「戦争を知らない子ども」のような無垢さが残っている。幼なじみの性格が大きく変わってしまっているため、すずの変わらなさがなおさら印象深い。しかし戦争はそんなすずですら変えていってしまう(すでに水原との再会シーンで幼年期の象徴ともいえる鷺が上手く描けなくなっている)。

 映画では当時の「広島」がより明確に描かれている。ロケハンや時代考証により当時の天気から情景をしっかりと再現しており、「ありゃ~」「ほうですか」など耳に残る方言のイントネーションも相まって風俗史としても楽しめる。方言の再現度は地元の人間ではないのでわからないけれど、のん(能年玲奈)の演技はキャリア最高だと思う。特に嫁ぐ前のあどけなさ全開のころの演技が抜群に良くて、少女としてのすずを完全に掴んでた。抑揚をつけず平板な演技なのでプロの声優の演技とは違うんだろうけど、すずのマイペース感と牧歌的世界観にはばっちりはまってるし正解だと思う。

 なによりゆったりとしたアニメーションともマッチしてる。アヴァンタイトルの行李を背負う動作。普通なら省いてしまうような動作にもコマを割いて丹念に描いていることがよくわかる。この時間感覚は脚本というよりもアニメの質によってもたらされている。
 
 映画もアニメも一秒間は24のフレームで構成される。ディズニーアニメでは24フレームを24コマで作画するフルアニメが主流だが、日本のアニメでは24フレームを8コマで構成する(つまり3フレーム1コマで撮影する)リミテッドアニメが主流である。こうすることでコストが削減でき、緩急をつけたアニメ特有の動きが可能となる。日本のアニメーターの力量は画力だけではなく、「どの動作を何コマ作画するか」によって動きをアニメ的に見せる演出力にあるわけだが、本作のアニメはフルアニメとリミテッドアニメの中間にあるようだ。つまり、秒間8コマの構成はそのままだが、あえて緩急をつけず、どの場面も一定のコマ数で描く「3コマ撮りのフルアニメーションをやろう」(パンフレットインタビューより)というもの。パンフレットを読んで、マクロでは時間が飛躍的に過ぎていくにもかかわらず、あのゆったり感が維持されているのはこうした秘密がある。どちらが良いというわけではなく、原作にあった手法の選択ということで。


 好きなのは嫁いだ翌朝の朝ごはん作るシーン。まだ夜も明けきらない早朝に白い息はきながら一人で水汲みにいくと、ふもとの家々からみんな煙があがってる。これからこの土地での生活がはじまるっていう実感が立ち上っていく感じで非常に良かった。
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