極黒の女子中学生

この世界の片隅にの極黒の女子中学生のネタバレレビュー・内容・結末

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

背景や細かい美術の数々が作品を彩っていた。あと、平和な広島市の江波から、空襲警報の多い呉に嫁いだすずが慣れない家事をこなしていき、呉の生活に順応していく姿に好感を抱いた。
すずと周作の微妙な距離感が徐々に縮まる歯がゆい描写は、戦争中という時代を一瞬忘れさせてくれる。

度重なる空襲警報により人々が疲弊し、悲しい展開だけが待ち構えていると思っていたが、それでも必ずクスリとさせられるシーンが挟まれており、苦難の中でも呉の人々は一貫して”順応”していた。

そして戦争を題材にした他作品との大きな相違点は、登場人物が総じて戦争へ疑問や憎しみを抱かないところだ。
すずも配給の減少や闇市の実態を知り、飢え死にしないか不安を抱いてはいたが、日本や戦争を懐疑する場面は見受けられなかった。基本的に誰も反戦意識を持たないのだ。
だからと言って、愛国心に満ち溢れている登場人物もいない。例えば作中で、玉音放送が終わった途端に「おわったおわった」と言いながら席を立つ者がいた。私はてっきり皆敗戦に悔し涙を浮かべるものと思っていたので非常に驚かされた。


周作の母が少し前に呉で起きた不景気を回顧し「遠い昔のことのよう」と発言していた。
この発言は、戦争で経験した辛い日々も、時が経てば遥か昔のように感じるということを示唆していたのだろう。


亡き人を偲ぶときは、涙ではなく笑顔を浮かべたいと思った。