しばわんこ

この世界の片隅にのしばわんこのレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
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原作は、こうの史代さんの同名の漫画。まず原作が素晴らしい。
この原作をとても忠実にアニメ映画として作り上げています。映画の資金はクラウドファンディングで市民の支援によって集められ、多くの市民ボランティアによって戦時中の暮らしの調査をして作られたそうです。

戦時中を生きた一人の女性を中心に、人々の日々の暮らしを淡々と、そして丁寧に丁寧に描いています。
ほんわかしたタッチで、昭和初期の時代の家族のドラマとしても、一人の女性のラブストーリーとしても観ることができます。
主人公のすずさんが、とてもチャーミングです。ほんわかして、か細いけど、芯はしっかりとした素敵な女性です。声を担当しているは、のん。主人公のイメージにぴったりとハマっていました。

ところどころに出てくる絵の表現が素晴らしい。
目を奪われるような鮮やかな場面が幾つもあります。
生まれ育った広島の海辺の風景。海を跳ねるウサギの表現。呉の街。現実と幻想の混ざりあった表現が素晴らしかった。
日常生活が舞台なので料理や配給など当時の暮らしの風景と民衆の姿も丁寧に丁寧に描かれています。一人一人に物語があり、暮らしに愛おしさを感じます。

その一人の一人の暮らしなどおかまいなしに無惨に壊していく暴力、それが戦争です。
戦争でたくさんの大切な人、大切な暮らしを壊されてしまいます。
それでもそんなつらい悲しみの時代の中でも、世界の片隅のようなところでも、希望を見つめようとし、また暮らしを続けていこうとする主人公すずとその家族の姿。その姿はもしかしたら自分たちが生きている現代にもつながっていることなのかもしれません。

この映画は、ことさら反戦を訴えている映画ではありません。構えてみる必要もありません。
はじめに書いたように、昭和初期の家族のドラマとして、ラブストーリーを観ても良いと思います。一つ一つの物語が素敵だからこそ、それを破壊する戦争の重みが伝わってきます。
いい映画でした。よくこの映画を作ってくれたと感謝したくなる映画でした。
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