RenAlLotus

この世界の片隅にのRenAlLotusのネタバレレビュー・内容・結末

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

能年玲奈の雰囲気とか、絵柄のやわらかさとか、それと対照的に描かれる戦争の惨さがすごく鮮烈に引き立ってた。

現在のすずにとって「過去」にあたる部分を、あんまり詳しく描きすぎるのって尺的にも流れ的にもマイナスだと思うんだけど、
わかりやすく「古い記憶(鮮明ではない)」としてモヤッと演出することで「過去」を最小限にとどめつつ最大限の没入感/共感を与えてるのかと思うと、すごく上手いなと思う

それを踏まえると、逆に劇中で最も鮮やかに・強いコントラストで描かれるシーンとして思い出されるのが、すずの夢うつつの中で描かれる空爆の心象表現。
(調べても出てこないんですけどそういうシーンありましたよね!?記憶にはあるんだけど)

全編通して、戦時中のなんでもない会話や日常を描いていて、なんの境界もなしに「普通の生活」に浸食してゆく戦争に観客の心は少しずつ締め付けられ、
終戦の瞬間にそれが感情の爆発として解放されるっていう構造だと思うんだけど、

同時に、すずにとって「もっとも鮮やかな記憶」を文字通りもっとも鮮やかに描いているということ、記憶のコントラストがそのまま画面のコントラストとして描かれているということ、
それが観客のテンションを操作する役割を持っているのかなと思いました。


「火垂るの墓」と比較する人は多いけど、火垂るの墓は脚本やストーリー、メタファー的な要素によって戦争のリアルを伝える「物語」だった。

それに対し、この作品は演出・画面表現の妙で観客を共感させ、戦争を経験した人間ひとりの人生を「追体験」させる。
火垂るの墓と違って、アニメにしかできない表現を有効に活用しているのも特筆に値すると思います。

火垂るの墓との比較っていう観点が続いちゃうんだけど、たとえば子供に、学校教育の中で戦争を伝えるには火垂るの墓の方が適していると思う。

主人公が子供なのもあるけど、「戦争」というものの輪郭が比較的ハッキリしてるから、「こういうことがあったんだ」と咀嚼しやすい。

「この世界の片隅に」は、先述の通り「人間ひとりの人生」を描いているというところで、すでに「自分の人生」を認識して歩みつつある20代以上の人の方が強く感情移入・共感できるんじゃないかなと思いました。


そんなところで、「戦争のある世界」「戦争のある人生」の一端を、戦争を知らない我々に味わわせてくれる映画。
「面白い」というのとは違うけど、名画として誰もに勧められる作品だと思います。
RenAlLotus

RenAlLotus