喜連川風連

この世界の片隅にの喜連川風連のレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
4.0
2016年のレビュー
(他レビューサイトからの移転につき再掲載)

一つの明確な感想が思い浮かばないというのが、正直な感想です。

徹底した画面構成と作りに虚構であるはずなのに虚構でないような、新海さんとはまた違うリアリズムを感じました。

画面のリアリズムが新海さんだとすれば、
片渕さんは人間の行動や事実関係のリアリズム。

膨大な事実の前に立ちすくむような、そんな感覚に陥りました。

従来のアニメであれば、ラストに故郷である広島に帰り、悲劇的結末を迎え、反戦的メッセージを帯びていたはずです。

しかし、主人公すずの出身地である江波や関係のある草津は、広島市内でも数少ない焼け残った地域のうちの一つであるとともに、"帰る"という選択をしませんでした。
戦中の広島を取り上げながら、草津や江波を舞台に選んだのは必ず意図があるのと同時に聞いたことがありません。

他にも様々あげられますが、ご都合主義のハシゴをことごとく外して、徹底的に地に足のついたアニメでした。
象徴的なのは、出会ってきた人々の顔がわからない(分かりづらい)ということ。

これも従来であれば、分かりやすくこちらにどういう人物か提示するはずですが、それがありません。

日常でありがちなどこかで見たことあるような人という印象を受け手に与え、本当にそこで暮らしている普通の人々の生活を垣間見ているようです。

そんな世界の片隅に暮らす
すずちゃん

戦争という時勢や流れの前にただただ、無力でも、それでも生きていく。

一つの時代の裂け目を覗き見て、自分の時代を相対化し、考えさせられました。

今日の白ご飯一粒一粒に感謝。
喜連川風連

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