サンタフェ

湯を沸かすほどの熱い愛のサンタフェのレビュー・感想・評価

湯を沸かすほどの熱い愛(2016年製作の映画)
3.5
2023年は邦画も観たい③

邦画の名作を履修していきたいと思いつつ全くどの作品が名作なのか作品を探しづらすぎて自分でFilmarksの統計からオールタイム100選を作ってしまいました!(宣伝)
https://note.com/santafe______/n/n0eea2c226cdf

正直序盤はこの作品の何を楽しめばよいか全くわからなかったのですが、途中から「あぁこれは死ぬ前に色々を整理して逝く作品なんだな」と理解してペースを掴めました。

作品を観終わって一番に感じたのは「みんながうっすらと早め(30〜40代くらい)に死にたい」と思っている現代日本らしい作品で面白いなというところでした。

主人公が最終的に死んでしまうわけですが「なんで死ななければいけないんだ」「もっと生きたい!」みたいな哀しさよりも「こんなに綺麗に全てを片付けて、これくらいの年齢で死ねたら幸せだろうな〜」みたいな感情の方が勝ってしまったんですよね。昔の不治の病系映画の「死ぬことは悲しい」という感動というよりは「理想の死に方」映画なのです。

途中までは若干引き気味に眺めていた主人公周りの異常に悲惨な境遇も、上のようなテーマとわかり多かれ少なかれ誰しも何かしら片付けないといけない問題を抱えているよね、という装置の分かりやすい誇張なんだなと理解できました。

改めて現代日本って正直あんまり病での死そのものへの恐怖感って大してないよな〜と実感し、死そのものの恐怖というよりは遺す者への責任だったりの方が気がかりだよねという本作の構造に共感してしまいました。まぁ、そりゃいざ死ぬとなったら悲しいけどさ、みたいな。

実際、本作では主人公も娘たちも死を受け入れる過程はほとんど描かれていないように感じます。本作が描くのは遺された者たちがこれから生きるために受け入れなければいけないこと、立ち向かわなければいけないこと、なのです。死ぬよりも生きることの方がよっぽど大変ですよね。正直今の時代、長生きすればするほど心配事が増えるだけ、みたいなところがあるわけです。

そして多くのレビューで言われているお母ちゃんの解決方法のゴリ押しぶりも、本作が死にゆく母ちゃん目線で「片づける」ことが目標であるからなんですね。その方法が娘たち本人にとって辛いのかみたいな視点はあんまりない。というのも余命少なく時間もないし、死ぬ前にとにかく片づけるしかないですからね。お母ちゃんから見て「片づいた」状態にするのが重要なわけです。ある意味「死に逃げ」みたいな精神性でもあります。

と、なんというか現代日本の雰囲気を上手く捉えた作品としての面白さ(興味深さ)は感じましたが、じゃあ映像作品として単純に面白いか感動できるかというと私にとってこの作品は全然そんなことはありませんでした。

どちらかというと改めて今の日本ってしんどい社会だな〜という再確認の機会でしかなく、私は好みとしてやはり映像作品は社会が元気か作る組織が元気かのいずれかでないと面白いものは生まれにくいよな〜というのを実感する機会になってしまいました。本作は映像も役者の演技も細かい脚本などは総じてとてもレベルが高いと個人的には感じたので尚更です。

元気のある環境で生まれる作品の強烈なパワーとエネルギーを浴びたいという気持ちで私が映像作品、総じて創作を求めているんだと思います。
サンタフェ

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