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Dracula:Pages from a Virgin's DiaryのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

Dracula:Pages from a Virgin's Diary(2002年製作の映画)
2.5
[最も奇天烈な企画をアヴァンギャルドに昇華] 50点

ガイ・マディンが怪奇映画を作った。しかも、ロイヤル・ウィニペグ・バレエ団の上演を記録してほしいというテレビ局の依頼で。マディンの生涯のうち現時点で最も奇天烈な企画であり、勿論彼は本気で向き合った。その結果生まれたのが本作品である。サイレント映画のサンプリングは、そもそも原典があるという特異な状況に直面して変質し、トッド・ブラウニング誰それ美味しいのとでも言いたげな、しかしながら尊敬の念を感じる不思議な作品が爆誕したのだ。  

物語をバレエ用にアレンジするなんてことをマディンがするはずもなく、原点回帰ならぬ原典回帰という形で何度も映画化されて知らぬ人はいないという『ドラキュラ』の物語を語り直す。しかし、バレエ団の上演を撮るという依頼をマディン流にアヴァンギャルドにこなすため、彼は様々な実験的手法を取り入れる。まず、原作が持っていたゼノフォビア的側面を強調するため、ドラキュラに中国系の俳優を採用する。そして、バレエでは表現できないアップの切り返しやバレリーナと共にカメラも一緒に回るなど視点の移動、そしてマディンらしく鬼のようにカットを割ったり後述のサイレント映画を再構築する手法を取り入れる演劇の録画を映画に作り変えることに成功している。サイレント映画のサンプリングに関しては中間字幕の裏に映像を差し込んだり、字幕の色を変えてみたり、血や頬に赤、霧に緑の色付けしたり、フィルムの染色を連続的に変化させたりすることで、これまでの作品でただの模倣や余計な設定に終わっていた"サイレント映画"という要素を『ドラキュラ』と上手く融合させたのだ。

私はガイ・マディンの覚醒を見たのかもしれない。ただ、物語に一切の新鮮味がない分、退屈さはあるのが残念。
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