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Bad Moon Risingのminamiのレビュー・感想・評価

Bad Moon Rising(2015年製作の映画)
2.0
 静かで美しい映像、菅田さんや結城さんの名演・怪演、「介護していた母を殺した中年男と記憶を失った若い女のドライブ」という設定は面白かったけれど、登場人物の心の描写がもっと丁寧であれば…、回想で描かれる過去の「日常」がもっとリアリティのあるものなら…、より深みのある心に響く作品になっただろうと思う。
 例えば、この作品のキーワードの一つ「卑怯」。ケイジの卑怯さについてはもっと泥臭い日常や醜い心の内面が見たかったなと思う。私は、ケイジは無責任で卑怯で逃げ癖があり、突然知り合った若い女に母性を求めるような都合の良いマザコン男だと思う。それをカッコいい雰囲気で美しくまとめられると白ける。
 家庭を顧みず仕事一筋で妻子に愛想を尽かされた中年男が直面する老々介護。それなのに家は掃除が行き届いて整理整頓されているし、母親に手料理を拒否され、布団を汚されても一切怒らないケイジ。実際は、極限まで追い詰められて、母親に怒鳴ったり暴力をふるっては後悔したり、周囲からは孤立するし、家も仕事もぐちゃぐちゃだろう。そういう全てから逃げたい気持ちを、母親の「殺して」発言を免罪符にして実行に移した…そういう醜さやその後の後悔や葛藤が見たかったなと思う。
 日常の描写という意味では、トワコが思い出す家族との過ごし方もまるでCMに出てくるような「作り物」という感じがした。そろそろ反抗期に差し掛かるであろう10歳の男子と10年以上寄り添った夫婦の間に流れる空気感、そういうものが感じられず現実味がなかった。
 トワコに関しても、フワフワしたつかみどころのない感じが、記憶を取り戻した後も変わらないところが残念だった。取り戻した記憶は凄惨なものであるというのに。
 結城さん演じるカメラマンと女教師の対峙はすごく良かったと思う。お二人の演技も素晴らしく、彼女の「卑怯」さは最後まで一貫していたと思う。(しかし小学生にあそこまで喋らせるのは、過剰な演出だと思った。もっと視聴者を信じてほしい。)
 最後に、ケイジとトワコがそれぞれ別の方向に歩き出すのは暗喩だろうから、トワコは苦しみながらも生きていく道を選んだと思うのだけど、その割には淡々としていて流す涙も美しくて、これから歩く道のりの過酷さを思うと違和感があった。
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