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スパイダーマン:ホームカミングのnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.9
 冒頭、P.O.V.視点ではしゃぐピーター・パーカー(トム・ホランド)は映像を投稿し、世界中にシェアする。『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』において、死の恐れなど感じさせない活躍ぶりを見せた15歳にとってアベンジャーズは憧れの場所だが、残念ながらスーパー・ヒーローとしての自覚には乏しい。一見してジョン・ヒューズの85年作『ブレックファスト・クラブ』や86年作『フェリスはある朝突然に』、ロバート・ゼメキスの『BTTF』シリーズのような80's青春映画を連想させる群像劇には、これまでの半径150cmの世界を彩ったメリー・ジェーン・ワトソンもハリー・オズボーンはおろか、グウェン・ステイシーも出て来ない。代父となるベン・パーカーの死の瞬間さえも大胆に省略する物語展開はしかし、ベン・パーカーからトニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr)への代父(メンター)継承の主題を孕む。オタク仲間で親友のネッド(ジェイコブ・バタロン)と『スター・ウォーズ』シリーズのプラモデルを共作し、はしゃぐ主人公の姿は、明らかに旧トリロジーの非モテこじらせ系男子の緩い青春群像劇とMCUとを強引に結びつける。ピーターは密かに弁論部のキャプテンであるリズ(ローラ・ハリアー)に思いを寄せる。ワンレンの美しい髪で、ワシントンDCのモーテルで美しい水着姿を披露するリズの姿は確かに学園一の美人だが、最初からピーターの背中に熱い視線を寄せていた弁論部仲間で一匹狼のミシェル(ゼンデイヤ)がやけに気にかかる。

 監督に抜擢されたジョン・ワッツの前作『COP CAR/コップ・カー』では、血気盛んなわんぱく坊主のトラヴィスとハリソンが、森の外れでパトカーを拾ったことで、怖い大人ケヴィン・ベーコンに執拗に追い捲られる物語だったが、今作ではクイーンズでご近所様の治安を守る活動をしていたピーターが突然、エイドリアン・トゥームス(マイケル・キートン)率いる極悪町工場軍団に命を付け狙われる。シリーズ屈指のヴィランであるバルチャーの登場、これまでバットマンやバードマンを演じて来たマイケル・キートンのあっと驚くヴィラン起用、そしてクライマックスに訪れる大きな物語から小さな物語への回収も実に見事で目が離せない。過去5作よりも確実に若返った「スパイダーマン」のコンテンツとしての魅力は、シンボルマークの偵察ドローン「ドローニー」、人工知能カレン、極小クモ型追跡システムなど幾つもの新しいガジェットとウェアラブル端末によるスパイダーマンの機能面での進化が大きい。あまりにも普通な青春群像劇の続く前半には一抹の不安も覚えたし、ビル群を使ったスパイダーマンらしい高低差のあるアクションが少ない点に不安を覚えたものの、ワシントン記念塔〜エレベーターでのアクション、スタッテン・アイランド・フェリーを真っ二つにする壮絶な死闘は文句なしに素晴らしい。

 すっかり若返った叔母メイ(マリサ・トメイ)の80年代を思わせる妖艶さ(80年代後半のマリサ・トメイとロバート・ダウニー・Jrのゴシップなど果たして何人の人が覚えているだろうか?あの撮り直し場面はかつての恋人に捧げたアメリカン・ジョークだろう)、ジョン・ファブローとロバート・ダウニー・Jrの息の合った掛け合い、少女が最後に発した衝撃の○○の2文字、そして端役中の端役として登場したアーロン・デイビス(ドナルド・グローヴァー)の曰くありげな眼差しなど、スパイダーマン・マニアには未回収な伏線も、今後を想起させて思わずニヤリとする。そして『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』以降のスティーブ・ロジャース(クリス・エヴァンス)の立ち位置がやんわりと明らかになるなど、往年のスパイダーマン・マニアからMCUの熱狂的な信者までもれなく納得させる痒いところに手が届く仕上がりは、MARVEL映画として見事に成立している。個人的にはRolling Stonesの『Can't You Hear Me Knocking』、Ramonesの『Blitzkrieg Bop』、Canned Heat の『Going Up The Country』、 Trafficの『The Low Spark Of High Heeled Boys』など絶妙な選曲にも思わず舌鼓を打った。サム・ライミの1作目の伝統への回帰と、VFX技術とガジェットの進化を見せつけた伝統と進化が融合した心底見事な新シリーズ1作目である。余談だが最新のアメリカの興行成績において、今作の興行収入は無事3億ドルを突破した。これはマーク・ウェブ版アメスパ2部作を超えて、サム・ライミ版旧トリロジーに迫る勢いを見せている。
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