糸くず

スパイダーマン:ホームカミングの糸くずのレビュー・感想・評価

4.2
例えて言うなら、初めて自転車に乗れた時の興奮と「どこまでも行けるぜ」という万能感、そして、自転車だけではたどり着けない距離を体感した時の諦め。そういったものがいっしょくたになった無邪気で屈託のない少年たちの冒険譚。

超人的な能力を手にして浮き足立つ心。大人の余裕からは程遠いピーター・パーカー(トム・ホランド)はその力の強大さに振り回され、道端の物をぶっ壊しまくり、「でかいことをやりたいし、自分にはそれができる」と思っていても、実際にでかい事件に遭遇すると大人の助けを借りなければいけない事態になる。

ヒーローの力は人に見せるためにあるのではない。人を救うためにある。ホームカミングのパーティを抜け出したピーターの疾走は、目の前の好きな女の子ではなく、出会ったことのないよき人々のためにある。いや、少年ピーターは、家族を守るために悪として働くバルチャー(マイケル・キートン)が許せないのかもしれない。いずれにせよ、大人の苦渋と対峙することで引き裂かれていく青春の苦みと痛みがこの映画にはある。

それはまさに『COP CAR コップ・カー』と同じ苦みと痛みであって、わたしにはピーターの最後の闘いがあの映画のラストのパトカーの疾走と重なって見えたのだった。大人になりきれないキャップとも、どこまでも大人なトニー・スタークとも違う、新しい風を感じる傑作であると思う。

これは物語の筋とはあまり関係のないところだが、ジョン・ファヴローの出番が予想以上に多かったのがうれしかった。トイレと手洗いをちゃんと待つのがかわいいし、最後は粋でおいしい役。
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