MikiMickle

タンジェリンのMikiMickleのレビュー・感想・評価

タンジェリン(2015年製作の映画)
4.0
監督・脚本・撮影・プロデュースもろもろは、新進気鋭のショーン・ベイカー。
3台のスマートフォンだけを使い、役者経験も全くない素人のトランスジェンダーたちを起用した作品。

トランスジェンダーの娼婦シンディは、友人のアレクサンドラ(同じくトランスジェンダーの娼婦)から、1ヶ月の拘留中に彼氏のチェスターが浮気していたウワサを聞かされる。
「男は浮気するから私たちが儲けられるのよ‼」というアレクサンドラの言葉も、シンディの耳には入らない。
相手が「白人の女」だから特に…
怒りくるったシンディは、「D」から始まる名前の浮気相手を探す。探す。そして、ある売春部屋であるモーテルの一室でガリガリの娼婦を見つけ出し、連れ回す。

アレクサンドラは歌手を目指していて、今夜ライブがある。みんなからバカにされながらもビラ配りと宣伝をし、その傍らで娼婦作業もこなす。

アルメニア人のタクシードライバーは、様々な客を乗せる。垣間見る人々。しかし、彼もまたある悩みと男性に対する欲望を持っていて…

熱気と、人の湿度を感じるクリスマスイブのLA売春街を舞台に、
彼女・彼らのたった数時間を追っていく中で見れる、人々の欲望と、世の中の語られない闇と、憤りのなさを、スピーディーに、面白く、かつ、心を抉るように描いた作品。


映し出される風景及び人物は、時に夕暮れの美しいオレンジ(タンジェリン)の光に照らされて、している背徳的な行為すら美しく感じる。
一方で、夜の場面では緑に光り、闇の部分が顕になっていく…

音楽も素晴らしく、緊張感を高めるような電子音や、ヒップホップ、時には場違いかと思うようなクラッシックまで多用し、しかしそれが考えられて使われたものなのだと伝わって来る。

この映画に出てくる人々は、一般的に見たら“普通”の人ではないし、“普通”の生活を送っているわけではない。
でも、人って誰しも必死に生きてる。例え“普通”でも、傍からみれば滑稽であるかもしれないし、例え無様だとしても、生きてる。
誰しも、自分に自信なんか持てない。不安になる時なんていつもある。

この映画は“性”的に“異常”であると見なされてしまっている人々が主人公だけど、“正常”とされる人々にもいえる悩みと葛藤を描いているのだなと思う。
縮図なんだろうなと思う。
そして“普通”だと見なされていないLGBTの人々や、闇の世界に生きる人の負い目は、日常の差別によって人1倍だと思う。言葉では言えないほど…
単純な感動とかではない涙が出た。頑張れ!とかいう涙でもない。表層的な涙ではない。同情を買わせるようなものでももちろん無い。しかし、グイグイ抉られるような、かつ、時に滑稽で、時にドタバタで、時に清々しいような、しかしリアルに迫るもので…
場末のLAにいてその喧騒と、決して見ることのできない闇を見ていたかのようなリアルさがあった。

そして何より、シンディとアレクサンドラがキュートで美しい。生々しい人間美。人間賛歌の映画。友情賛歌の映画。コインランドリーでのラストシーン、本当に最高だった。
この映画に出合えて良かったと思う。
MikiMickle

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