グラッデン

ザ・サークルのグラッデンのレビュー・感想・評価

ザ・サークル(2017年製作の映画)
3.7
今時の若者の価値観に焦点を当てた作品みたいなフワッとした印象で見に行きましたが、その部分に限らず、シェアとプライバシーの視点からSNSが普及した情報化社会を考える興味深い内容でした。

物語は、コールセンターの派遣社員として働いていた主人公が(ジョブズ風)カリスマを擁する(グーグル風)新進気鋭のIT会社で働くことになるところからスタートします。彼女は会社の価値観・体験に影響を受けて洗練され、ある出来事を通じて重要な立ち位置を担うようになりますが、理念の中にある歪みに気づいていきます。

私見ですが、物語の構造は1980年代にNYの金融界を舞台にした『ウォール街』に似ていると感じました。チャーリー・シーン演じる同作の主人公もまた、ゲッコーというカリスマ個人投資家に接することで洗練されていくが、彼の思想の危うさに触れ、行動を起こします。

金融工学が絡みリーマン・ショックを生んだ経緯はありますが、ある種の野心を抱く若者が身を置く業界として金融→ITに変化したのは、時代の流れを感じたりします(汗)

ゲッコーが述べた有名な「欲は善だ」という言葉は、彼の思想を顕著に表したものですが、『ザ・サークル』におけるサークル社のプレゼンで登場した「秘密は嘘」という言葉も同社の思想を強く表したものだと思いました。

全ての情報は隠されることなく公開されて共有されるべきだ、コレは表面的に捉えると非常に正しいように聞こえる。某国首都の知事が似たようなことを述べていました。

しかし、行き過ぎた徹底が生んだものは精度の高い管理社会とプライバシーの喪失です。そして、管理者が巨大な権力を身につける危険性を含んでいる。リアリティのあるガジェット等のディティールからは浮いて見えました、その過剰さこそが本作の肝ではないかと。

社会に対する問題意識も高い若い人材に溢れた、キラキラとした会社空間が作り出すディストピア。『ソーシャルネットワーク』の公開から10年が経とうとしてることを無駄に実感する作品でした。