ちろる

光のノスタルジアのちろるのレビュー・感想・評価

光のノスタルジア(2010年製作の映画)
4.3
希望と悲しみの過去の追及。
空に届きそうな、チリのアタカマ砂漠。
まるでどこかの惑星のように赤茶色のその土地にある天文台に天文学者たちはこぞって宇宙を仰ぐ。

美しい神秘的な景色とは裏腹に
流刑の地として人々はここで生き絶えた歴史もあるという。
クーデターによって殺された人たちの遺骨、更には迫害された先住民たちの叫び。
暗い歴史に背を向けながらもこの砂漠は宇宙の科学を解明しなければいけない。

空を仰ぐ科学者たちと
砂漠の砂で遺骨を探す遺族たち
互いに過去を探すのには変わりはないのだが、悲しみと希望が同居している。

途方もなく乾いた空気の中で遺骨を探す悲しみの旅は、人間の過去の所業の愚かさを見せつけられる。
終わりのない過去の追及と、確信のない過去の追及。
後者には追及の先に夢があるが、前者の場合、真実を見つけたときに、さらなる苦しみを感じるかもしれない。
国に疎まれた女性たちが砂漠を歩み、天文学者たちは宇宙を仰ぐ。

収容所に入れられた科学者たちも、政治犯たちも、奴隷のような生活の唯一の心の解放するのはその美しい夜空だった。
どんなに思想を抑制しても、見上げて感じる感動や自由は奪えるはずがないのだ。

どこからきたのか?
地上からではなく、私たちは光の彼方から生まれたのかもしれない。
宗教と科学との狭間で私たちはいつも自分たちのあるべき姿を思う。

幾億の星を見上げればとても美しく宇宙からやってきたと考えるし、そう思えば重苦しい心も解放されるかもしれない。

過去から届いた伝言。
原住民の秘密。
何億年もの前の宇宙を読み解く空。

終わりなきこの砂漠の地での平行線にどうしたらこのドキュメンタリーの結論づけるのか?と不安だった。
しかしその答えをラストに両親を拷問で失った女性の言葉にすっきりと収められていた。

その女性は苦しみの過去の中で天文学を知り、そこで生命の成り立ちを捉えてその苦しみを乗り越えたのだろう。
スピリチュアル的なのか科学的なのかは分からないが狭間で私たちの生命を唱える美しい映像が、いまの時代だからこそ心に刻まれる。
こんな時だからこそ宇宙を見たい。
死しても尚、私たちが置かれるのは永遠に広大な宇宙一部となるだけなのだと思えば少しだけ恐怖心も和らぐのだろうか?
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