KKMX

END OF THE CENTURY エンド・オブ・ザ・センチュリーのKKMXのレビュー・感想・評価

4.0
 高校時代に出会って以来、ずっと愛聴し続けているラモーンズ。もはや自分の一部と言っても過言ではないです。なので本作はDVD鑑賞済ですが、劇場では初でした。
 うーむ…わかってはいたが、やはりシンドいドキュメンタリーです。光と影というより、影の部分が描かれた作品ですからね。


 ニューヨークから少し離れた郊外で結成されたラモーンズ。彼らは保守的な街のはみ出し者たちであり、楽器のスキルもありませんでした。しかし、それを逆手に取ったようなシンプル&スピーディーなスタイルを発明し(でもメロディはポップという…何気にココが一番大事かも!)、やがてそれはパンクと呼ばれるようになりました。
 初めて彼らを観た人たちの証言がシビれました。「ラモーンズはコンセプチュアル・アートのようだった」との発言はものすごくしっくり来ます。全員革ジャンにダメージジーンズ、マッシュルームカットで2分で終わる曲をMCもほとんど入れずに嵐のように演奏して去っていく。「彼らをはじめて観たときは、ポカ〜ン😮だったよ」と表情で語っていた方もおりました。長ったらしいソロとか複雑な曲展開が当たり前になっていたロックに、初期衝動を呼び戻し、誰でもできるように改良したのがラモーンズでした。これはまさに革命。

 ラモーンズが起こした革命は、ロック史においてはぶっちゃけビートルズに次ぐものだと感じています。テクニックがなくてもバンドができる、曲が書ける、しかも衝動をストレートに解放できるからカッコいい。このラモーンズの方法論はやがてロンドンパンクに絶大な影響を与え、ニューウェーブや90年代のオルタナティブロックを生んでいくのです。かのU2も結成はラモーンズきっかけですからね(後にジョーイ・ラモーンに捧げる曲『ミラクル』を書いている)。現在もラモーンズの孫とかひ孫とかが、世界中のあちこちでヘタでダサカッコよくてリアルなパンクロックを演奏しています。

 ラモーンズの革命はスタイルだけではないです。アメリカ中をツアーしたことで、各地に影響を受けたバンドが生まれたそうです。ロック不毛の地にも、ラモーンズが訪れるとバンドが生まれる。おそらくアメリカのハードコア・シーンとかインディ・ロックの下地を作ったのはラモーンズでしょうね。
 どんなボンクラにも『これならば俺っちでもできるぜ!』と思わせるパワーとカッコよさ、そして楽曲の簡単さがラモーンズには備わっていました。『電撃バップ』なんて、ギター持って2週間くらいでマスターできますからね。


 しかし、歴史的に最も重要なバンドのひとつであるラモーンズも、商業的な成功とは無縁でした。先日観たジョーン・ジェットも『アイ・ラブ・ロックンロール』1発でその後は苦渋を舐めてましたが、音楽活動のパートナーに恵まれて幸せそうでした。
 しかし、ラモーンズはバンド内の人間関係もグチャグチャ。活動自体が相当苦しかった印象です。リーダーのジョニーは石頭のバリバリ保守。情緒ゼロの規律のみでバンドを統制していました。ボーカルのジョーイは左派でジョニーとは正反対のナイーブな男。ベースのディーディーはドラッグ好きの破滅型ロックンローラー。ジョニーの統制がなければバンドは空中分解していたかもしれませんが、初期の段階で分解していた方がメンバーにとって幸せだったのかもしれないと感じています。
 特に、80年代にジョニーがジョーイの彼女と付き合って結婚したあたりから、修復は不可能でしたから。ディーディーも脱退しましたし。ホント、商業的成功がないにもかかわらず、この状態でその後10年以上活動したのは凄いと捉えるか、自傷的と捉えるか。「ほかに出来ることがないから」と言ってバンドを続けたジョニーに、彼を嫌っていたにもかかわらず連れ添ったジョーイ。
 1996年に解散した時も、普段と変わらずメンバーはバラバラに帰っていったとのこと…

 ジョーイは2001年に病気で亡くなりました。この時、俺はジョーイを追悼したドールというパンク雑誌を購入しています。ジョニーのインタビューが載ってましたが、追悼しているトーンがあんまりなかった印象を受けたのを覚えています。ジョニーはジョーイの葬式にも参列しなかったそう。そんなジョニーも2004年に亡くなってしまった。ディーディーは2002年にオーバードーズでやはりこの世を去ってます。


 本作を再鑑賞しても、やはり初回に観た印象と変わらない。なんて言っていいかわからない。ラモーンズは偉大だし、21年続けた意味はあったと思います。しかし、メンバーが恩讐を超えることなく亡くなっていった事実がなんともやるせない。やるせない。やるせないんだよなぁ!
 歴史的にも最重要なバンドなのに、売れなかった上にこのような苦しみを背負い、和解に至らぬまま主要メンバーは皆亡くなってしまう。運命とはいえ、キツいものがありますね。なんか中断感があるんですよ。こんな偉大なバンドなのに、最後まで走り抜けたはずなのに、なんかピリオドがしっかり打たれてないというか…


 ちなみに、ジョニー・ラモーンが亡くなる3日前に行われたラモーンズ結成30周年トリビュートライブの様子を収めたドキュメンタリー『Too Tough To Die』は精神的に本作の続篇といった趣きがあります。苦しみを背負って走り抜けたラモーンズへの大いなる名誉回復が行われたライブで、燃焼し切る前に炎が消えて中断してしまったラモーンズの魂が、彼らの遺伝子を持つ偉大なバンドたちの力を借りてこの時ついに最後まで燃え切り終結したように感じました。
 ぶっちゃけ、アンダードックスでは、本作と続けて『Too Tough To Die』を上映して欲しかったなぁ。

 ラモーンズを愛するが故に俺は本作をしんどく感じますが、このようなシビアなリアルをきっちりと描いた本作を俺はリスペクトして愛しています。キツかったけど、劇場で観れてよかった。

 偉大なるラモーンズよ、永遠なれ!

 Rock'n, rock'n'roll radio Let's go!!
KKMX

KKMX