くりふ

愛するがゆえにのくりふのレビュー・感想・評価

愛するがゆえに(2013年製作の映画)
4.0
【ムンバイ心中】

オールドファッションだが芯の通った力作。私の薄いボリウッド履歴からは、この愛の重量感は『命ある限り』を連想させました。

原題『Aashiqui2』からシリーズものかと思ったら、1990年に『Aashiqui』という大ヒット映画があり、そのリメイクだそうですね。

お話の元ネタは『スタア誕生』。ボリウッドはこの物語原型が好きらしい。アル中で転落途中の大物歌手が、酒場の歌姫そして、彼女の才能に惚れ込みデビューさせるが、歌手としての立場が大きく逆転してしまい…という定番物語。

問題は、アディティヤー・ローイ・カプール演じる酔いどれ歌手RJ。冒頭からアル中爆走で演技も的確ですが、彼のダメっぷりには付き合いきれない。

依存症治療の難しさはわかるし、邦題通り愛ゆえにそうなる事情もわかるんですが、娯楽映画で延々ただダメぶりをダメダメループされるといやになりますよ。見せなくてもわかるんだから以下同にして尺減らして欲しかった(笑)。個人的にはそこが唯一最大の欠点。

因みに私は『若さは向こう見ず』に続いてこちらをみたのですが、あちらでもアディティヤーはダメ男を演じており、あちらはライトダメ男だったのでうわ、悪化しとるとショッキングでした(笑)。

彼を愛ゆえ包み込もうとする、歌姫アロヒを演じるシュラッダー・カプールが素晴らしい!

実際に本作でスターとなったそうですが、ちょっと危うい佇まいから、音楽界の女王まで一気に(…一気過ぎるが)上り詰める振幅…しかしブレない心と美を体現してお見事。惚れました。

でもアロヒにとって、真のダメ人であるRJは恩人でもあり、彼にどうしても弱さを見せてしまう。共依存に踏み込んじゃうんですね。ここもわかるんだけどねえ…あわわ「ムンバイ心中」にイッちゃうの!?とハラハラする面白さもありますが、それって愛じゃないだろ。

終盤愛の修羅場は、もっと違う道を探ってほしかった。それが新しい?ボリウッド愛の提示にもなったことでしょう。

制作のTシリーズって、インドの大手音楽会社だそうですね。その社長がプロデュースしているからか、楽曲の力がスゴイ。とにかく、頭から終わりまで聴かせます!

使い方も見事で、人物の心情を巧みに表しながら、場面の意味を多層化し深めている。で、終わってから、あれ、ダンスがなかったな?と気づくんですよ。

しかしダンスてんこ盛り映画をみたのと同じくらい、音楽映画として満腹になれるのです!

ひとつ可笑しかったこと。ボリウッド映画って、喫煙シーンに必ずたばこ警告表示を出すようですが、飲酒運転のシーンには何も出ない!…思い切りツッコミたくなりました。そっちの方が大問題でしょうが!(笑)

<2015.8.25記>
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