荒野の狼

ベトナムの風に吹かれての荒野の狼のレビュー・感想・評価

ベトナムの風に吹かれて(2015年製作の映画)
4.0
「ベトナムの風に吹かれて」は2015年公開の初の日本・ベトナム合作映画。主演の松坂慶子は当時63歳であるが、本人は本作は20代くらいの気持ちで演じた大人の青春映画と語っているように、奥田瑛二との絡みも爽やかで、前向きな役柄。扱われている題材は、母親の草村玲子の介護など、重い話も含まれているにも関わらず、松坂の明るい演技はコメディを見ているような楽しさがある。エンディング曲は松坂がフォー・セインツとデュエットで歌う「たまには仲間で」であるので、松坂の美しい声をエンドロールの最後までじっくりと聞きたい。
本作は舞台はベトナムのハノイであり、日本が第二次世界大戦の終盤にベトナムを占領した時に、日本兵が現地のベトナム人女性と結婚し子供も誕生したにも関わらず、戦後は妻子をおいて日本に帰国した問題も一つのトピックとして描かれており貴重。現代の問題ではベトナム人が介護の職を求めて来日して仕事をしても、日本側での受け入れが理不尽なものがあること(例、資格試験に「おしめ」の漢字「襁褓」が出題)なども含めて、老人の介護の問題も扱っている。
言語は、日本語とベトナム語で、主演の松坂は、ベトナムで日本語教師をしている設定であり、ベトナム語のセリフも多い。「シン チャオ(こんにちは)」や「カム オン(ありがとう)」は本作では頻回に使われる。
ベトナム人の優しい人情が描かれている本作だが、公開当時より、日本とベトナムの交流が盛んになっている現況では、是非、見ておきたい映画。大森一樹監督は、2022年11月12日に70歳で亡くなったが、本作が遺作となった。
吉川晃司が本人役で出演しているが、その間に流れる曲は「Nobody's Perfect」は、2010年に吉川が『仮面ライダーW』の役名、鳴海荘吉名義で発売したシングルで、仮面ライダーファンには嬉しい。本作のエンディングでは、「Nobody's Perfect」は作曲は鳴海荘吉、歌は吉川晃司とクレジットされている。吉川は奥田の昔からの友人という設定であり、奥田の役柄は大森監督と重なる部分がある(大森は吉川のデビュー作「すかんぴんウォーク」の監督)。吉川は奥田に次の言葉を伝えるためにベトナムに来る。「馬鹿げた決断でも迷っているよりはいいんじゃないか。失敗だったら教訓にすればいい」。これを聞いた松坂は「私が母をベトナムに連れてきたのもそういうことかもしれないわね」と受けている。
荒野の狼

荒野の狼