秋日和

モントレー・ホテルの秋日和のレビュー・感想・評価

モントレー・ホテル(1972年製作の映画)
3.5
鏡を使った少しばかり技巧的なショットから始まる本作は、特別フレームを意識した作品だと感じた。勿論、映画ならばフレームを意識するのは当たり前なのだけど、この作品は「フレームってなんだっけ?」という場所にまで立ち返って、映画を見つめているような気がする。
舞台はタイトルの通り、モントレー・ホテル。このホテルが実在するのかどうかはさておき、アケルマンはホテルの至る所にカメラを置いて空間を切り取っている。例えばエレベーターの中。一見乗り降りする乗客とフロアをただただ映しているだけのように思われるシーンなのだけども、実はこの時、エレベーターの扉がある種のフレームとして機能している。
客室のドアや部屋の窓など、フレームに該当するものはホテルの至る所に存在する。そして子供が部屋のドアを少しばかり開けてチラチラとこちら側を覗いていたり、画面の手前にある扉がカタカタ揺れている等、フレーム外への目配せも忘れはしない。その意識の高さは、アケルマンってホラーも実は撮れたんじゃないかと思うほどだけど、今となってはそんなこと思ってもどうしようもない。
ホテルにどんな従業員がいて、どんな利用客がいるのかは、正直映画を観ただけでは全く分からない。きっと中には長年勤めているホテルマンや、何度も何度も宿泊したような常連客がいるのだろうと思うのだけれど、きっとそれらの誰にも負けないくらいアケルマンはこのホテルのことを知っているんじゃないかと思う。何処にカメラを置こうか、どうやって画面を切り取ろうかと、彼女は悩みに悩んだ筈だ。ホセ・ルイス・ゲリンという監督はしばしば「人」でなく「街」を主人公にした映画を撮る人だと自分は思っているのだけど、だとしたらアケルマンは「ホテル」を主人公にした映画として本作を撮ったのではないかな。ホテルの昼の顔や夜の顔をカメラの前進/後退移動でゆっくり捉えれる光景は忘れがたい。そして何より、究極のフレームは監督の眼差しそのものなのかもしれないな、なんてことも思ったり。
秋日和

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