アケルマンがかつて20代前半の数年を過ごしたニューヨークの風景を映しながら、そこにその当時母親から届いた手紙を淡々と読んでいく彼女自身の声が重なる。
しかしその声の淡々さが、逆に観る者の胸の深いところに触れる。
アケルマン監督の作品は、彼女のとてもパーソナルな視線から捉えた物事を定点的に映しているものが多い。
だから単調だと感じる人もいるだろう。(特にドキュメント作品。)
にも関わらず、なぜか最後まで観続けてしまう魔力のようなものがある。
例えばこの作品では、自分自身も自立して故郷を離れて暮らし始めたばかりの頃を思い出し、なんとも言えず切なく甘酸っぱい気持ちが胸に去来した。
派手な音楽や演出を使うわけではないのに、多くの人がそんなふうにそっと心を揺れ動かされて、なぜだか分からないけれどそれが長い時間 心に残ってずっと考えてしまう。
それがアケルマン作品の魅力なのだと思う。