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シン・エヴァンゲリオン劇場版のhoshのネタバレレビュー・内容・結末

4.3

このレビューはネタバレを含みます

「庵野、そこに愛はあるんか?」

めちゃくちゃアンビバレントな気持ち。庵野監督の作る映像、編集、画面のファンとしては大大大満足だけれど、一方でシンジくん視点、独特の暗さを含んだ思春期世界観のファンとしては複雑という感じ。

ただ、ひとつ言えるのはすごく感動したということ。庵野監督自身はもちろんのことこれまでエヴァを見てきたファンに対するセラピーのような映画に仕上がっていたと思う。

まず映像面については第三村のシーンが全部最高だった。
庵野監督作品頻出の電柱、操車場はもちろんのことキャラの異様な接写や建物をナメで撮るカメラアングルが満載でとにかく眼福。要所要所で壊れた文明の残骸も見せてくれるので、その世界の実状も分かるし。
次、どんな画面、構図なんだろうというワクワクが凄まじく、その期待を余裕で越えてくる。しかもテンポよく沢山見せてくれるのでここだけでも見たいものみれたな、と。多分どのシーンを一時停止してもポストカードに出来ると思う。それくらい構図が綺麗。

また、庵野画面要素を抜いてもすごく新鮮だったと思う。田植えや居間のシーン含めて構図がすごく実写的。特にアスカとシンジの揉み合いのシーンのカメラの揺れ方は完全に実写のそれだなと。『聲の形』『リズと青い鳥』の山田尚子監督作品が推し進めてきたアニメにおける実写邦画演出イズムをさらに進化させていたように思う。あと背景も丁寧で凄かった。一瞬実景と疑ったし、合成とかしてるのだろうか。

ただ、戦闘に関しては好みではなかった。
エヴァのウルトラマン的巨大特撮感、日常的な都市を駆け回る異物感っていう序、破のバランスがすごく好きだっだけに、今作の割とヴンダーや宇宙中心の戦闘には燃えなかった。ウルトラマンというよりヤマトだなーという感じがして。

やっぱりなんだろう、好きな物サンプリングしてよっしゃ!戦闘!って感じの序や
TV版の前半のバランスがすごく好みだったんだなと思う。初見で見た時はぶっ飛ばされて、その後に引用元の作品を見ていくっていう楽しみがあるというか。エヴァってまさにサンプリングの王道でだし庵野監督はその天才であると思う。同時代のクリエイターとしてはタランティーノが思い浮かぶ。

それで、この引用の組み合わせで新鮮なものを作る、引用を公言するスタンスは今自分が触れている現行のエンタメ作品、例えば呪術廻戦やチェンソーマン、はたまた米津玄師やThe1975といったものにも受け継がれていると感じる。そういった今自分が好きな作品群、作品の楽しみ方のスタンスを与えてくれたのは紛れもなくエヴァだし先駆者なんだなと。

今作も音楽特撮の過去作からの引用は多かったけれど、あくまでエヴァを終わらせための引用って感じがすごく強かった。ただ、終盤のゲンドウvsシンジのTHE特撮!作り物!って感じのバトルは最高。
とはいえシンゴジラからファンになった自分が庵野作品に求める画のかっこよさを存分にさらに凄まじいレベルで体感できた。

さてここからはキャラ、及び自分のエヴァ観の話になる。

まず、第三村で生活と会話が描かれたことがめちゃくちゃ衝撃的だった。エヴァって
都市生活の空虚さや、会話不全なシーンが
ほぼ全編って感じだったので普通に会話して生活している人々がいて、温もりすら感じるってやばいなと。すごく普通のことなんだけどエヴァだととにかく驚きというか。

綾波がプラグスーツのまま田植えしてるとかめちゃくちゃ変なのにそれに違和感ないって実は凄いことだなと思った。田植えの作画の細かさ、先に挙げた構図の新鮮さ含めて見たことない画面だった。紛れもなくエヴァなのに、やってることは全然エヴァっぽくない。

また、人間味がなかった綾波が労働を通して人間らしくなるというのも感動的。綾波の描き直しって意味でも超可愛くて良かった。
あと周りもすごく成長していたと思う。トウジ、ケンスケはもちろんミサトやゲンドウに至るまで本作は思ったことをしっかり口に出す。これまでのエヴァに足りていなかった、会話と愛情、他者の肯定が全面に溢れ出ている。

特にアスカのくだりは痺れた。旧劇と同じ構図を持ってきて、きちんと思いを伝え合うなんてことが起きるとは。すごく大人になった作品だなーと思った。

なによりシンジくん自身もそういった周りとのコミュニケーションを経て復活していくっていうのがすごく良いと思う。

ずっと塞ぎ込んでいた彼、(Qの庵野監督って見立ては当然出来ると思う)が周りからの
愛や優しさをしっかり受け取って、泣いて
再生するって、ずっとエヴァを見てきてシンジくんにやって欲しかったことだよ!とすごく嬉しくなった。

彼が拒絶していた節があるとはいえついに
真っ当な普通の優しさを与えられた。前半第三村を通して本作はシンジのセラピー及び庵野監督のセラピーをしっかりやってくれていて、ああこれが見たかった、やっと普通になったと思った。
だからこそ後半の、シンジくんが全てのキャラクターたちに愛と救済を返していく所は涙なしでは見られなかった。ああ、みんな幸せになったと。

シンジくんはゲンドウと和解し、やっと前に進める。シンジ主観で見てきた自分にとって1番の救済だ、とすら感じて嬉しくなった。なにより、すごく成長した。ずっと不審で怪物、呪いのようにすら思えた親が、実は誰よりも人間臭く恐怖に怯えていたという構図。予想通りではあったけれど、彼がしっかりその心情を吐露し、シンジくんに向き合うことで救われたのはすごく良かったと思う。それでシンジくん自身も納得するし。ほんと良かった。これが見れて。
ミサトさん、加持も合わせて大人組との
決着も逃げずにつけてくれたのに感動した。

後半の展開は長年エヴァを見てきたファンに対するサービスであり、浄化だと思う。
新世紀のタイトルもしっかり回収していて
ほんとに全部綺麗に終わったというか。ものすごく誠実に1人1人を終わらせて、救ってくれたなと。ほんとジンときた。

ただ、ここで厄介になるのは他でもない
今作を見た自分の自意識である。自分はTV版のエヴァをシンジと同い年で鑑賞し、彼と同じく塞ぎ込みがちだったことも手伝ってすごく共感した。特に、自信のなさ、コミュニケーション不全の部分。

そのため、TV版、旧劇、Qの退廃的超鬱気味なシンジくんがめちゃくちゃ好きだし、
何よりそれこそが求めるエヴァらしさ、及びに好きな空気感、というのはどうしてもある。

だからシンジくんの成長はめちゃくちゃ嬉しかったと同時に寂しかった。なぜならウジウジしているQ、序盤の第三村の彼のような心を持つ私を置いて彼は一足先に(25年はかかったが)大人になったからだ。はるか遠くに行ってしまった気がした。置いていかないでくれ、とすら思った。そして、エヴァっぽくないとも。

けれど自分が見たのは紛れもなくエヴァだし、これ以上ないほど見たいものを見せてくれた。ではこの満たされない心は何か。

結論は多分、この風通しのいい、人としっかり生きていく事を選んだエヴァ、及び
シンジくんを全面肯定できるほどには自分が大人になっていないということだろう。
逆に言えば歳を増してから鑑賞することで
感じ方が全く異なる作品とも言える。

エヴァに対して思い入れがあるというよりは庵野監督とシンジくんがすごく好き、
というタイプのファンだけどここまで語りたくなる時点で大ファンなのかもしれない。何はともあれお疲れ様の気持ち。
シンウルトラマンに超期待。
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