工藤蘭丸

アンナの出会いの工藤蘭丸のレビュー・感想・評価

アンナの出会い(1978年製作の映画)
4.0
シャンタル・アケルマンの、これも自伝的な作品でしょうかね。

ベルギー出身でパリに住む女性映画監督が、新作映画のプロモーションのために西ドイツを訪れるんだけど、まずファーストシーンの映像美に息を呑んだ。駅のホームを映しただけなんだけど、その構図や色合いの美しさには非凡なものを感じました。しかも固定カメラによる数分間の長回しは、まるで絵画を鑑賞しているような気分にもさせられましたね。

例によって、それほど大きなドラマが起きるわけでもない退屈な映画なんだけど、旅先から自宅に帰るまでの間に出会う他人や知り合いや母親や恋人との交流を通して、主人公のキャラクターが浮き彫りになってくる作品。

今でこそ、女性の映画監督もさほど珍しくないし、バイセクシャルなども市民権を得つつあると思うけど、本作が作られたのは1978年。当時としては相当な疎外感があったろうと思うし、やはり前作の『家からの手紙』同様、内面の孤独がひしひしと伝わって来る作品でしたね。

ラストシーンの留守電に、彼女が話したがっていたイタリアの女友達からと思われるメッセージも入っていたけど、それすらもスルーする様子には涙が出そうになりました。

この監督の作品はちっとも面白くないのに嫌いになれないのは、私とはどこか波長が合うからなんだろうなあ。生前に一度会ってみたかったような気もしますね。