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アンナの出会いのtntnのレビュー・感想・評価

アンナの出会い(1978年製作の映画)
4.5
シャンタル・アケルマンは、粘土をこねるみたいに次々と空間を変形させる。
単に左右対称な画面の中央に扉が配置されているのではなくて、そこから「手前から奥へと」伸びる空間が生まれている。
と思ったら今度はカメラの横移動を通じて、空間は左から右(逆もまた然り)に伸びていく。
この空間は、例えば照明が付いたり消えたり、ラジオが流れたり消えたりすることでさらに表情を変える。
ロードムービーだから電車の車窓が映るわけだが、移動せずとも「ここ」から「あそこ」への距離を感じること自体に旅する映画としての広がりを感じる。
アンナは、部屋の中でやたらラジオをつけている人で、現代におけるずっと音楽やラジオなどをイヤホンで聞く人にも通じると思った。
アケルマンの映画って、やっぱり今見ても全く古びてない描写が多い。
旅するアンナの佇まいは、所在なさげで窮屈なコンパートメントではかなり居心地悪そうに過ごす。そんな彼女が母親と話す時だけ、表情と身体の緊張を緩める。「あなたの作品の新聞記事とか全部読んでるよ」と言われた時の、アンナの表情が本当に素敵だった。
寝室の場面は、はっきりクィア。
親戚の人やたまたま知り合った男とアンナの会話は、かなりすれ違っている(特に前者)が、それでも2人の別れ際は寂しい。
自分の部屋に戻るラストはどう考えればいいかまだわからない。部屋に滞留していた時間を巻き戻すという行為。
『TAR』のラストは、この映画をやろうとしていたのがはっきりわかって、トッド・フィールドの無邪気さが伝わる。
オーロール・クレマンがだんだんケイト・ブランシェットに見えてくる。
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