なべ

私はゴーストのなべのレビュー・感想・評価

私はゴースト(2012年製作の映画)
2.7
 会社の同僚に観てと言われて視聴。タイトルからすでにネタバレしてるから、開始早々、はいはい、「この女性がゴーストなのね」とわかるからこれがオチではないのだ。
 もうどう考えても神経質そうな白人がやるべき役柄なのに、なぜかぽっちゃりした日系人が演じてる。昔のビニ本女優のような感じがして、キャスティングに何かしらの意図を感じるんだけどよくわからない。
 白塗り全身タイツ男もおもしろなのか怖いのかよくわからない。
 実験的な作品なのかなあ。でも何を実験してるのかやっぱりよくわからない。なんだろう…つくり手の意図がわからないことだらけだ。おそらくこの作品を理解する知識が足りてないのだ。
 もっとエンタメに振れば悪くないのにと思うが、そうはしたくない強い意志を感じる。ホラーの題材としても、ありきたりだけどやりようによってはおもしろくなると思うのは、わかってないからなのだろう。
 ただ、不思議な魅力はあって、「見て損した」とか「時間の無駄」とは思わないので、誠実な作品なのだと思う。

 冒頭の引用は天才詩人エミリー・ディキンソンによるものだが、ヒロイン自身の名前がエミリーなので、きっと彼女はディキンソンなのだろう。もちろんディキンソンは日系人ではないが、白いドレスを着て死ぬまで家に篭りっぱなし(家から出られない)だったというからほぼ間違いない。こういう実験的な作品のエピグラフは重要なキーワードなことが多いから絶対スルーしちゃダメだ。
 となると、自身の魂に潜む邪悪性をうたった詩からインスピレーションを得て映像化したってところだろうか。内なる悪魔に蝕まれたエミリー・ディキンソンの病んだ魂を、死後も館に閉じこもってそうな彼女のゴーストをなんとか昇華させたいと願うようなファンムービーなんだろうか。孤独とマゾヒズムと暴力が持ち味の詩人だから、映画や舞台の世界にもファンが多そうだもんな。
 ゴーストも単に幽霊の意味ではなく、攻殻機動隊でいうところの魂のような気がする。家に取り憑いた幽霊でなく、邪悪な別人格に脅かされる魂ととらえる方がスッキリする。
 ラストの暗転表現に関しては昇天、消滅、自我の崩壊、おのおの感じたままでいいよってことかな。
 生きた人間から見た昇天が明るく白いイメージだから、幽霊側の昇天は黒く無に帰す感じとしているのかもしれない。ファンムービーとしては意地悪に思えるが、ディキンソンの内面世界をよく知るファンだからこそ、彼女のマゾヒズムにちゃんと配慮したゆえの暗転なのかも。
 エミリー・ディキンソンのことを知っている人ほど、彼女の魂の救済ぶりが楽しめる作品な気がする。
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