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フェアウェル さらば、哀しみのスパイのodyssのレビュー・感想・評価

3.7
【スパイだって人間だ】

東西冷戦時代に実際にあったスパイのお話だそうです。

東西冷戦の末期、西側に重要な情報を流すソ連の諜報員(KGB大佐)と、情報を流す役目を嫌々ながら引き受けさせられ、やがてその仕事にのめりこんでいくフランス人技師の物語。しかしこれはスパイとしての活動に重きをおいた作品というより、主演二人の人間物語として見るべき映画でしょう。

ソ連の諜報員は、相手と話すときフランス語を使いたがる。他にフランス語を話す機会がないから、と言う。せっかく身につけたフランス語能力の維持という実用的な側面より、フランスの文化への素朴な憧れが見える場面です。実際、相手のフランス人技師からフランス語の詩集をもらったり、息子のためにソニーのウォークマンを入手してもらうなどする。正式には御法度だったはずの西側文化がいかに当時のソ連人にとって魅力的だったかが分かります。

一方、フランス人技師の方も、危険な仕事だと分かっていて、妻(美人だけど扱いにくそうな奥さんですね)に止められるのに、やめられない。多分、相手に対して一種の友情を感じてしまったからではないか。ビジネスライクな関係だったらあんなに長続きしないでしょう。発覚してぎりぎりのところでソ連からフィンランドに逃げ出し、その後で西側機関に相手のKGB大佐を救えと訴える場面に、冷戦の非人間性のなかにも厳然として存在した人間らしさを見ることができます。

またKGB大佐にも不倫の相手がいて、そのせいで家庭内に波風が立ったりして、これまた人間臭い。スパイと言ってもこういう日常性の中で生きていたんだなあ、としみじみ思いました。

なお、レーガン(米国大統領)、ミッテラン(フランス大統領)、ゴルバチョフ(ソ連共産党書記長)などの実在著名人物を、それぞれ実物によく似た俳優が演じているのに感心しました。日本の映画はこういうところが結構いい加減だったりするので、見習ってほしい。
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