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ポンヌフの恋人のayのレビュー・感想・評価

ポンヌフの恋人(1991年製作の映画)
5.0
パリの真ん中のポンヌフ橋で、孤独なホームレスの男性と片目が失明寸前の女画学生が、激しい恋に落ちる。人生をうまくやっていく能力を欠いて、明日のあてもなく生き、自分自身について何も知らない。理性をこえた2人の愛や愛にともなう葛藤は、むこうみずで過剰で痛々しく混乱してて、ストレートじゃないのにストレートに響く。

有名な花火のダンスシーン以外も、カラックスの盟友だった撮影監督のジャン=イブ・エスコフィエによるすべてのショットが、最高にきれいだった。夜のストリートで、工事中の橋で、地下鉄の街路で、奔放にふるまう2人。明けがたの空気の微妙な色あい。セーヌ川の水面のゆらぎ。強い光の下では消えてしまうようなはかなさを、独特のくすんだ透明さでみせる。莫大な予算をつぎこんでつくられた、360度撮影の伝説のオープンセット。世間から隔絶された別世界な舞台で、手ぶれ、激しいズーム、ボケ、極端な俯瞰等を交えながら、なめらかに疾走するようにカメラが動いて、一体どうやって撮ったんだろう?という角度とスピードのショットの連発。

もともと大道芸人だった主役のドニ・ラヴァンは、高い身体能力で演技を飛びこえた危険を冒してまで、相手を圧倒し、焼き尽くそうとする激情そのものを演じてる。同時に、誰でも内に持ってるフラジャイルなもの、不足や欠損を、痙攣的な動作や繊細な表情でみせる。人生がうまくいかない、この先どうなるのかわからないなかで、生きているよろこびとか楽しさとか悲しみとか苦しみとかを自分たちでコントロールできないままにさまよった2人が、最後の最後まで合理的なすべをもたずに愛を求めて突っ走ってくところに、ものすごく解放感があった。

鋭敏すぎる感受性をもてあまし、夢想的で、要求の高い洗練を追っていた30歳のカラックスの才気が、あらゆるところで爆発した作品。本当に好きだった。
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