ルイまる子

さようならのルイまる子のレビュー・感想・評価

さようなら(2015年製作の映画)
4.0
深田晃司監督の2015年、ディストピア的作品。静寂の中、美しい野山と風になびく葉の音が聞こえる山の中のモダンな一軒家、その家の窓から見える風景とソファに横たわる金髪の女性と彼女の使用人であるアンドロイドのレオナのほぼ室内劇。僅か近所へ外出することもあるが、あくまで静かに静かに物語は進んで行く。時は近未来で、原子力発電施設の爆発により、日本は放射能汚染され、政府は国民に避難国を決め一人一人国外脱出しているというSF的な状況だ。なのに全く自然な感じのする作品だ。

ターニャは幼い頃、家族とともに南アフリカから来日し(アパルトヘイトで押し出され難民だったか?)お父さんの仕事でここ日本に根をおろして暮らして来たから日本語も話せるし、英語フランス語ドイツ語も、アンドロイドのレオナ(日本人のよくいるタイプの顔、しかも後で知ったが「アンドロイド研究の世界的な権威である大阪大学教授・ATR石黒浩特別研究所客員所長の石黒浩が開発した本物のアンドロイド「ジェミノイドF」が出演している」という訳で本物のアンドロイドらしい!!)が色んな言語で眠りにつくまで詩を暗唱してくれたりする。この詩と風景がたまらなく良いです。風の音だけが聞こえる部屋でこんな介護ロボットにいつも詩や小説を読んで欲しい。

ターニャは身体が弱く、何かの持病があるが、病院に行って治療したくても非常事態だから、順番待ちを強いられ、段々とこの世に執着なく、このまま死滅して行く自分自身を受け入れている。今私達が経験しているコロナ禍の世界に似ている。私はまだ死を身近に感じてはいないが、いつどういう事情で世界がこのようなディストピアになってもおかしくはない。ターニャも、いつも訪ねて来てくれる日本人の友人も、過去があったり、途中で知り合う人にも前科があったり、脱出の順番も富裕層、好条件の人から選ばれていくらしいので、順番が回ってきた頃には命尽きてるかも知れない。彼らはそうやって無理してまで生きるのを諦めている。

本作について、絶望感が漂う、暗いという批評は的外れで、絶望感の中で自分の心と向き合う最期の場面を映し出した美しい作品だ。『ニーチェの馬』を見ましたか?殆どセリフもなく風の音だけで感動させる巨匠の作品も多くある。深田晃司監督はまだそんな高齢でもないのに、なんという成熟だろうか。

【ネタバレあり】

一つ最後に面白かったのは、アンドロイドに感情はなく、レオナが見せる感情は全てAI由来のものはなく、全部ご主人さま、ターニャからもらったデータのインストールらしい。ターニャは今までレオナと話していたのではなく、ずっと自分自身と語りあっていたのかと気付かされる。

最後に、人間が死に絶えた後、アンドロイドはソーラーパワーで?(多分)蘇り山道を這う様に一定のペースで進んでいく、そして彼女は背の高い麦の穂に揺らぐピンクの花を見た。その時、感動した様に花を見上げる。この瞬間はアンドロイドの中に亡くなったターニャが存在していることを意味する。きれいなエンディングだった。
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