くりふ

ボリショイ・バビロン 華麗なるバレエの舞台裏のくりふのレビュー・感想・評価

3.0
【それでも踊りつづける】

バレエ団を追うドキュメンタリーとしては珍しく、光より闇が入口。

2013年に起きた、芸術監督への顔面酸ぶっかけ事件を軸に、英国人監督がボリショイ・バレエの内幕に切り込んだ…つもりらしいがペラい。

そもそも、事件が起きた時たまたまロシアにいたから飛びついたそうで、きっと根性が便乗でしょう。バレエには興味なさそうですね。結果的に、事件でできたボリショイの穴塞ぎに利用された気がする。

取材OKが出たのが新総裁に変わった後だそうで、それまでに色々と仕込みがあったような…(笑)。

犯人は捕まるも動機は不透明。事件の奥に深い闇が広がっているか…も不透明。

顔に硫酸ぶっかける行為は確かに異常ですが、組織内の内紛ということなら、どこでもここで描かれる程度の対立はあるでしょうし、そのように印象を薄めるのが本作の目的となった気がする。

新総裁ウラジーミル・ウーリンの発言は明快でまあ好感持ちましたが。それなりに口臭率高そうな、ロシア政府の息がかかっていることも明言しているし。この劇場は外交にも利用されていますからね。

芸術監督セルゲイ・フィーリンが、失明寸前のまま復帰してからは、組織内で疎外されゆく様が痛々しく、またスリリングでもありますが、自分で蒔いた種っぽい、とも見えてくる。

但し、ここに映るものが全てとは当然、思えない。難しかったのでしょうが、扱うのは舞台裏に絞り事件を徹底追及した方が、力ある映画になったでしょうね。

表側、ボリショイの美をきちんと捉える力もあまりなさそうだし。とはいえ、貴重な映像もありました。

プリンシパルであるマリーヤ・アレクサンドロワさんは、私は(当時)昨年の来日公演を見て美しさより厳つい!という印象でしたが(笑)、こうして他の演目や素顔、人となりを知ると認識も和らいできます。アキレス腱を切る事故から復帰していたんですね。

でもなあ本作、復帰後初舞台の映像に、何故わざわざアレ選ぶ!? 見る目がないと思うよ。

全体、ダンサーさんたちを見ていて、どんな事件が起ころうが踊りつづける意思…狂気かもしれないもの…は静かにしっかり伝わりました。

最近、ロシア映画の新作に、キチガイじみた傑作が続いていることもあり、シュールなお国だなあ…と、改めて興味も湧いてきたのでした。

<2015.9.23記>
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