ずどこんちょ

ジーサンズ はじめての強盗のずどこんちょのレビュー・感想・評価

3.6
とにかくワクワクして楽しく見れる映画でした。
主役を演じた3人がビッグネーム過ぎて驚きます。マイケル・ケイン、モーガン・フリーマン、アラン・アーキン。
大御所俳優たちが邦題を見るだけで気が抜けてしまいそうな緩々コメディに揃い踏みなのですから、楽しいに決まってるじゃないですか。

案の定、この3人の落ち着いたジョークの言い合いがとても心地良いのです。
品があるし、経験値の深さが感じられるし、金欠ではあるけれどもお互いに心の余裕がある感じ。信頼し合っているのも伝わります。
バリバリ働いて油の乗っている若者たちとは違うのです。もうそんな時期はとっくに過ぎている。そんなやつらの土俵で戦ってないんです。

金利が銀行の説明とは違う形で上がり、ローンの返済が滞ってしまっていたジョー。
腎臓を患っており、親戚知人からドナー提供者が現れない限り死期が近いウィリー、そして正義感に揺らぎながらも二人の決心と同じ道を歩む覚悟を固めるアルバート。
そんな3人を追い討ちのように襲うのが、勤めていた工場の閉鎖と、それに伴って貰えるはずだった年金が根こそぎ銀行に回収されてしまったという事件でした。
先行きが見えなくなってしまった3人。ついに自宅の明渡命令が届き、ジョーはふと、以前自身が出くわした銀行強盗を自分たちもやってみてはどうかと思い付きます。
生活苦に喘ぐ市民から平然と金を奪い取る銀行に一矢報いるため、そして当然にあるはずだった未来を取り戻すために彼らは立ち上がるのです。

この世界で若者たちはお年寄りである彼らに対してやっぱりどこかで敬意を持っていません。突然工場を閉鎖して彼らから仕事と年金を奪った会社役員、銀行の融資係、FBIの担当刑事。
彼らの事情や背景に寄り添って一緒に解決してくれるわけでもなく、簡単に切り捨てていくのです。金に困ったご老人たちがなんだか的外れなこと言ってるわ、と。

しかし、ジョーらはもはやそんな同じ立ち位置で生きていません。穏やかで毎日同じ1日を繰り返すような平凡な日常が過ごせればそれで良いのです。だからそんな無慈悲な若者たちに怒るでもなく、どこか冷めた目で見ているということに彼らは気づいていません。
冒頭で強盗に入られてお漏らしをしてしまう銀行の融資係も、ジョーの助言を受け流しておきながらマスコミの前でジョーの助言の受け売りをするFBIの担当刑事も、とにかく滑稽に映ります。
この中で親身に3人の身の上に寄り添ってくれるのが、強盗計画を立てるプロの犯罪者と違法薬物を売り捌いている元娘婿なのだから不思議です。
悪い人ほど、理不尽な世の中に苦しめられている人の気持ちが分かるのです。
強盗計画に協力してくれた男の正体に関してもニヤリとさせられました。

そして、まさかの「ドク」登場!!
クリストファー・ロイドが本作でも印象的なキャラクターを演じていました。
3人がよく行く集会所の代表メンバーで、相当認知症が進行している仲間ミルトンを演じます。ギョロ目をギラつかせながら、会話が成り立たないミルトン。お茶目ですし、何よりこの惚けたミルトンが彼らのアリバイを確かなものにしてくれるのです。利用しちゃったのは申し訳ないですが、その分、集会所にお礼の寄付も山分けです。

都合が良すぎる筋書きだとは思います。
緩々コメディだからそれでも良いのです。とにかく面白ければそれで良い。真実味なんて要らないのです。
練習試合として、スーパーの万引きを決行した時、お婆さんの電動カートを奪って追っ手の警備員から逃げ続けます。
マイケル・ケインの走らせる電動カート。そのカゴに収まるのはモーガン・フリーマンです。「E.T.か」と自分でも突っ込んでましたけど、このインパクトのある逃走劇はずるい。何よりどう見ても電動カート遅いですし、走ってくる警備員も遅すぎる……。とうとうウィリーは追いかける警備員の目を小麦粉でくらまそうとするのですが、そんなことがうまく行くわけもなくあっさり捕まります。
これが本作のコメディです。"そんなことありえない"けど、大御所俳優たちが本気で演じているからコントのようで面白いのです。

しかし、3人にとって強盗計画は大真面目。犯罪のプロの手も借りて、入念な計画を立てていきます。
銀行強盗に立ち上がった3人が手に入れたいのは本当は金じゃないのだと思います。
何十年もかけて働いてきた労働に対する敬意と、老後の人生を幸せに過ごすという夢なのです。
工場からバッサリ切り捨てられ、挙句に年金すら奪われてしまった彼らに夢を叶える力さえ与えられません。
夢を叶えるどころかローン返済という負債が残ります。家に住むことすらままならなくなるでしょう。家族を苦しめることになってしまうのです。

多分、お金だけの問題であれば考えれば何か手はあったのかもしれません。
福祉を頼ることや法律で守ってもらうことや。しかしジョーには時間がありませんでした。あと少しで自宅を追われてしまうのです。ウィリーも内緒にしていましたが、実際彼もこのままなら余命が長くはありせん。
時間がない、そして何よりそれでは手に入れたいものは手に入りません。安全な場所で金を吸い上げ、自分たちの立場は揺るがないと信じてやまない銀行や世間に一矢を報いること。一世一代の大勝負で余生の幸せを自分たちの手で手に入れること。
それこそが彼らの叶えたい夢なのです。

どんな理由であれ銀行強盗は許されることではないでしょうし、こんなに上手くいくわけがないことも分かっています。
実際、彼らもウィリーの姿を現場で目撃した少女が嘘をついて守ってくれなければFBIに負けていました。
彼らの犯行は決して完璧ではなかったのです。
しかし、どんな年になっても大勝負を仕掛けたい、敗北者のような人生のまま幕を引きたくないと感じるのは誰だって同じだと思います。
いずれ自分たちも年をとって、彼らと同じ年齢になるのです。その時きっと彼らと同じ目線に立ち、彼らと同じ屈辱を感じることもあるかもしれません。
それでも、最後まで良い形で立ち上がる事をやめない人生でありたいものです。